#2 「前世」×「墓場」×「過酷な主人公」=「邪道ファンタジー」

「日本じゃ火葬が多いから炎使いが多いって聞いたけど、この火力は予想外だな!」

 そう叫ぶ茶髪の男に、少女が二度目の火炎を放つ。地面を切り裂き焦がしながら突き進むそれを、しかし男は軽々と躱して見せる。狙いを外した火炎はそのまま直進し、ついでに進路場を彷徨っていた蠢く死体を軽々と焼き払い、墓石に激突して熱風を巻き起こす。供え物だったらしい花束が弾け飛び、花弁が舞い落ちるのを待たずに灰と化す。

「私の炎は特別製なの。『焼身自殺』と『火葬』、遊死体リビングデッドの浄化にはぴったりでしょう?」

 少女は軽い調子で応えるが、その眼光は鋭く、十字架を模した墓石の上に降り立った男をびたりと睨みつけている。対する男も大げさに溜息をついて見せるが、その碧玉の瞳は少女を余念なく見据えている。束の間の静寂。荒涼とした墓地に一陣の風が吹き抜け、枯草を揺らしていく。


「それで、こんな夜中なのに墓地にいったいどんな用事かしら。どんな用事でも焼いてあげるけれど、遺言くらいは聞いてあげてもいいわ」

 真っすぐに男を睨みつけたまま問いかけると、男はふと笑った。

「遺言か、遺言なら生前に一度書いたからもう結構かな! いやなに、異国のお嬢さんがこんな僻地までいらしたって聞いて挨拶をと思ってね」

 軽薄な調子だが、少女は男がわずかに姿勢を変えるのを見逃さなかった。刹那、男の足元の墓石が爆ぜ、同時に男の姿が視界から消える。続いて背後に気配。振り向きざまに掌から熱波を放つと、目前まで迫っていた深紅のそれと相殺する。両者の間に衝撃が走り、反動で吹っ飛んだ少女は地面に火花を放ちながら着地し、即座に反撃体制を整える。

「血液、かしら」

「ご名答! 『失血自殺』に『土葬』さ。これはアドバイスなんだけど、この国じゃ土葬が主流だ。だから遊死体も大概頑丈だ、その辺の焼身自殺者の火じゃびくともしないんだけど」

 そう答える男の姿を見ると、右手首を中心に赤黒い液体が静かに渦巻いている。青白い皮膚と対照的なそれはゆっくりと形を変え、少女の目の前で男の手首に戻っていく。

「だけど、君の炎はこっちの遊死体すら焼くくらいには高温らしい。驚いた」

「貴方は受け止めたけれどね。躱した人なら何人かいたけれど、真っ向から受け止める人は初めて見たわ」

 軽く舌打ちをする。余力は十二分に残っているが、それは男も同じだろう。探し物のためにはあまり時間を無駄にしたくない。そう考え、警戒を解かないまま少女は問いかけた。


「貴方、『ネクロマンサー』のことはご存じかしら?」

 少女の問いかけに男は眉を上げる。知っているが、意図を図りかねているといった様子だ。そう見て取り、さらに言葉を繋ぐ。

「私、死ぬつもりだったの。家に火をつけて、煙と熱の中で綺麗さっぱり消えてなくなるつもりだったの。なのに気が付いたら知らない場所にいるし、この体のせいでもう一度燃えることもできない。だから、代わりにもう一度死ぬ方法を探しているの。ついでに私をこんな体にした『ネクロマンサー』に、しっかり借りを返すのよ」

 男はしばらく聞き入っていたが、やがていくらか真剣な様子で語り返した。

「そりゃ奇遇だ、僕も彼を探していてね。借りを返そうなんて思っちゃいなかったけど、この頑丈すぎる体の殺し方を、彼なら知っているだろうと思ってさ」

 そう言ってにやりと笑う。どうやら目的は一致していたらしい。服の土埃を払い、男に歩み寄ろうとしたところで、周囲に気配が集まっていることに気づく。意思を持たない、傀儡としての動死体アンデッド。こちらに迫るその群れを横目に、約束を交わす。


「そう、なら手を組みましょう。だから西方のお兄さん」

「何かな、東方のレディ?」

「いつか貴方が、再び土に眠るまで」

「なるほど。ならいつか君が、再び灰に還るまで」


灼熱と赤が溢れ出す。死が、空間に充満する。


「共同戦線と、行きましょうか」

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