第5話

翌朝。

窃盗集団逮捕のニュースはTVで放送されていた。

黒髪黒目に戻った摩希は朝ご飯をもぐもぐ食べながらそれを見ている。

(これで白石さんも元気になるといいな)

そんなことを考えながらリンゴジュースを飲んでいた時──

『ごめんください』

玄関から声がかかった。白石さんだ!

『はい!』

(朝から何だろう?)

返事をしつつ玄関へと向かう。


玄関には白い包みを持った白石さんが立っていた。

『朝からすみません。今朝けさのニュース見ましたか?例の窃盗団が捕まったみたいです。昨晩うちの葡萄が半数ほど被害にあってしまいましたが…。ですが、毎年悩まされていたのでスッキリしました』

白石さんは微笑みながら続ける。

『これ、葡萄園の側に落ちていました』

そう言いながら、取り出したのは摩希のスマートフォンだった。

昨晩杉の木の上から落としていたことに気付かなかったようだ。

(あの時眠たかったからなぁ)

『あ……ありがとうございます』

冷や汗をかきつつ受け取る。

『いえ、お礼を言いたいのはこちらです。昨晩私の葡萄園を見張ってくれていたんですよね?』

白石さんの綺麗な顔が近づいてくる。

『え、あっそうです!お話を聞いてから気になってしまって。先日はご迷惑をお掛けしてしまいましたし』

緊張でしどろもどろに返していると、目の前にずいっと何かが出てきた。

『お礼になるかは解りませんが、うちのスチューベンです。美味しいので是非食べてください』 


それは手に持っていた白い包みだった。

『ありがとうございます。美味しく頂きます』

摩希はゆっくりと包みを受け取る。

『それでは収穫の続きがありますので戻りますね。スチューベンの感想お待ちしております。

───可愛らしい魔女さん』


『え?』

最後の言葉はとても小さく聞き取れなかった。聞き返した時には白石さんは既に去ってしまっていた。

(何て言ってたんだろう?)

考えても聞き取れなかったものはしょうがない。

摩希は手元の白い包みをそっと開く。

中には鮮やかな紫色の葡萄があった。

一粒手に取り口に含んでみる。

『甘い……』

白石さんの葡萄はしっかりと育てられているのか、とても糖度が高く甘かった。

(たまには冒険するのも良いかもしれない)

台所に持っていくべく、再び包みを閉じる。

『あー、また真理亜さんに会えないかなぁ。お礼も言いたいし』

(まだ当面暫くはここにいよう。アルバイトも探そうかな。白石さんの農園募集してるといいんだけれど)

未来に思いをせつつ摩希は玄関の扉を閉じる。

その目は希望で輝いていた。

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もしも魔女から空飛ぶグッズを貰ったら 月咲 江 @kousaki0621

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