第6話

「xzxs3。:‼︎」


ツンツン


「ちょっ、痛いですって

大人しく歩いてるんだからつつかないで下さいよ⁉︎」


夜の砂漠は異世界人と鬼ごっこした時よりも冷え込んできており

吐く息が時折白くなっている。


ボロ布で全身を覆った異世界人に捕まった私は、

手を縛られた状態で夜の砂漠を歩かされていた。


30人ほどこの場に異世界人はいるのに皆喋らず

砂漠には足音とバイソンたちが時折発する唸るような鳴き声しかしなかった。


どうやら私をひっくり返したバイソンは異世界人にとっての

馬やラクダのような位置付けらしく、

彼らは地中に潜っていた他のバイソン達に乗って移動している。



時折異世界人に突かれながら

30分ほど無言の行軍が続いた後、


今私たちがいる場所から大分離れたところであかりが灯っているのが見えた。


「n5q g¥dgk94え6r。94zq5_」


異世界人の一人が他の異世界人に声をかけるとかけられた方は無言で頷き

明かりの見える方向へバイソンを走らせていった。


きっとあそこが彼らの住処で獲物を持ち帰ったことを報告しに行ったのであろう。


これからどうなるのか、それを知るのは聞いたこともない言語で喋る異世界人のみが知ることである。

私がよく読む異世界小説でありがちなパターンだと

奴隷にされてこき使われるか戦場で矢面に立たされるか、

どっちにしても健康で文化的な最低限の生活とは180°無縁であろう。


正直に言って、私が満員電車に揺られている時まで

私は小説や漫画に出てくる登場人物の一人になれればなんていいだろうかと思っていた。

剣や魔法を駆使しして戦い、不可思議で神秘的なものを発見し、

行先で出会いと別れを繰り返す。

恥ずかしながら社会人になってもそんな童心のような冒険に憧れを持っていたのだ。


自分もいつかは、そんな血湧き肉躍る生活を過ごしてみたいなんぞと思っていたが、いざ実際に異世界に来るはめになって経験したのは苦行のみである。


小説でも才能を持ち合わせていない主人公が序盤苦労する話はあるが、

それが自分の身に降りかかると我慢などできる訳がない。


ただ、まあ、着の身着のままで異世界に送られた現代人にしてはよくやった方ではないかとも思う。

灼熱の砂漠を6時間一人で歩き、武器を持った異世界人30人の手を煩わせたのだ。


一般的な現代人であれば灼熱の砂漠で根をあげる者も多かろう。


私は一般人にしては頑張った方ではないだろうか、うん。

だから神様、仏様、


「誰かぁ‼︎助けてく…

アイタっ‼︎」


「6え‼︎4。xえc¥‼︎」


天に向かって助けを乞おうとしたら異世界人に棒で殴られた。


ああ、異世界で生きるというのがこんなにも大変だとは思わなかった。

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