第4話
「…。」
月明かりに照らされて私は無言で東(と思われる方向)へ進む。
気温は昼間の暑さが嘘のようでもはやスーツだけでは肌寒いくらいだ。
私が生まれるよりも遥か昔、砂漠を歩いて商売をしていた
かなり利にかなった行動なのだろう。
案外、夜の方が隊商と出会えるかもしれない。
そんな淡い期待を込めて歩を進めていく。
夜の砂漠は時折吹く風の音以外音を立てるものもなく静かで、
砂丘が青白く光りとても幻想的だ。
欲を言えば食料に困窮しない状況でこの光景を見たかった。
さらに欲を言えば麗しい美女なぞ贅沢は言わないから誰か他に話し相手がいればもう最高である。
夜の砂漠は幻想的であるが余計に私を孤独に感じさせた。
ああ、人が恋しい。
普段私は、特別おしゃべりとかでは無いがこうも黙々と一人で歩くのは精神的にキツイ。
天よ、我に食料と話し相手を与えたまえ。
…というか、私をこんな窮地に貶めたのも天なのか神なのか分からない声なのだが、
「6k;ftんkぢゃt」
私の後ろから甲高い声がした。
ギョッとして後を振り返るとそこには人間が立っていた。
月の光によって日中よりは見通しは悪いにしても人影に気づかないほど私は間抜けではない。
まるで、つい今しがたこの砂漠の下から這い出てきたかのようだ。
「あー、どうもこんにちは。
いや、今はこんばんはですね。」
「…。」
「色々とありまして私はこの砂漠で遭難しているのですが、
助けていただくことは可能ですかね?」
初めて会う異世界人とのファーストコンタクトだ。
私は緊張で少し汗ばむのを感じながら異世界人に話かけた。
「6k;ftんkぢゃt」
言葉を発しているのか、はたまた鳴き声なのか不明だが
日本語とちょっぴり英語を話せる程度の私には声が何て言ったのか理解できなかった。
よく見ると異世界人は顔も含めた全身をボロ布で覆っており、口の部分からはシュノーケルのような筒が伸びていた。
私の危機感知センサーが僅かに反応した。
「6j5dyb4dゆえ
tんkえ:い5」
「え:い5」
甲高い声がもう一つ聞こえた見るとすぐ近くの砂丘から同じような格好をした異世界人が喋っているようだ。
「え:い5」
「え:い5」
「え:い5」
先ほどの声がきっかけだったのか、
異世界人が一人、また一人と砂漠から現れる。
12時間ぶりに他の人間の声を聞いたにも関わらず、
私は自分の身に危険が迫っていることを感じた。
「え:い5」
私の前にはどこに隠れていたのか異世界人が30人ほどいた私を囲うように立っていた。
全員が全身をボロ布で覆い、中には手や腰に武器らしきものを携帯しているものがいる。
彼らはジリジリと私との距離を狭めようとしている。
間違いない。
異世界人とのファーストコンタクトは失敗。
私は異世界人と敵対してしまったようだ。
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