第3話
異世界に来て6時間が経過、
ようやく日差しを遮れる大きな岩を発見したがすでに夕方だ。
歩いている間に人影はおろか、
生き物も先ほどまで私の真上を飛んでいた鳥を除けば目にすることはなかった。
「アァ…。」
疲れた。
私は岩の側に腰掛けて休憩することにした。
水が貴重なこの環境で少しずつ、少しずつ飲むと決めていたが
水筒のお茶はもう半分ほどしかない。
正直、明日生きていけるかも分からない…。
いや、ひとまず考えるのはよそう。
当初の目的だった日差しを遮れる場所に辿り着けただけでも自分を褒めるべきだ。
私はご褒美にお茶と弁当を一口づつ口に含むとよく噛んで食べることにした。
噛みながら考えるのはこの状況を作った原因である声のことだ。
平々凡々で暮らしてきたサラリーマンをいきなり何もない砂漠に転送するというのは控えめにいって鬼畜の所業である。
だが、声の言っていた特別な力があればこんな何もない砂漠の中でも問題なく生きていけるのか?
私は自分の右手を見る。
砂だらけになった手から何かが飛び出す気配は無かった。
歩いている間に何か自分に力が宿ったという感覚もないし、
ひょっとしたら何かの間違いで私には特別な力が手に入らなかったのかもしれない。
よく異世界系の小説でも主人公が何のスキルも与えられずに異世界に召喚されてしまう話がよくある。
私も不名誉ながらそんな異世界小説の主人公と同じような状況になっているのかもしれない。
いやいや、そんな。
きっと何かあるはずなのだ。声がそう言っていたし。
ただ、声の不手際で異世界に来てしまったことも確かで、
声の印象からしてあまりやる気がないようだったから
不手際に不手際を重ねた結果
こんなことになっているのかもしれない…。
「誰かぁ‼︎助けてくれ‼︎」
思わず大きな声で叫んでしまった。
叫んでも助けが来ないことは分かっている。
だが、叫ばずにはいられなかった。
もう無理だ。
歩いている最中にも考えないようにしていたがもうだめだ。
絶対に私はあの声の手違いでこんな砂漠に一人、
着のみきのまま転送されてしまったのだ。
今頃私以外の被害者達は人里の近くとか城に転送されて勇者だなんだと持てはやされているに違いない。
そして魔王を討つ冒険に出かけてその道中の広大な砂漠で骨だけになった私を発見するのだ。
ああ、なんでこんなことに。
私が一体何をしたっていうんだ。
日本にいた頃は小説が好きなただのサラリーマンだ。
誰かに特別恨まれていたこともないし、借金も奨学金くらいで
先行きは不透明ながら、特に不自由もなく暮らしていたのに
これではあんまりではないか‼︎
「異世界に来てなんで砂漠を6時間も歩かなきゃいけないんだ⁉︎
異世界ならもっとこう、楽しいイベントがあっていいでしょ⁉︎」
エルフなどの異種族、異世界グルメ、もふもふの妖狐、etc...
そんな異世界イベントを一つも見ずに私はこの広大な砂漠で
一人朽ち果てるのだ。
そんなことあってたまるか。
絶対に、なんとしても、こんな砂漠から生き延びてやる。
そのためには今、この現状を打破する何かが必要だ。
それは今のところ
1.砂漠を歩いて人の痕跡を見つける
2.自分に宿っているかもしれない特別な力を発揮する
この二つのうちのどちらかというわけだ。
どっちにしてもうまく行かなければ鳥の餌エンドになることは明白だ。
そして2に頼るのは得策とはいえない
結局私は砂漠を歩き回らなければいけないらしい。
幸いまもなく夜が訪れる。
夜であれば多少は砂漠の暑さも和らいで行動しやすくなるであろう。
私は弁当をもう一口食べると
夜の移動に備えて仮眠を取ることにした。
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