第2話

暑い。



再び意識を取り戻したときまず初めに感じたのはうだるような暑さだった。

仰向けになっているようだ、恐る恐る目を開けてみると目の前には雲ひとつない青空が広がっていた。


そして周りを見ると、見渡す限りの砂だった。

どうやら砂漠にいるらしい。



さて、これからどうするか。


とりあえずスーツについた砂を払いながら先程の声を思い出す。


意識を手放す前に見聞きしたことが正しいならばここは異世界ということになる。

そうすると私にも特別な力が備わっている筈なのだが…、そんな気は一切しない。

もしかしたら常時発動している類のものではなく何かしらのアクションを行うことで発現する力なのかもしれない。

ただ、そのアクションがなんなのかが分からない。


声はそもそも特別な力についての細かい説明はしなかった。

それならば体感ですぐに分かるものなのだろうか?


うーん。情報が少なすぎる。

せめて一緒に日本で死んだであろう人が周りにいればよかったのだが、

あいにくの所近くに人間の気配はしない。



空を見上げるとはるか上空で鳥が弧を描いて飛んでいる。



…、あれ?

この状況、ひょっとしてかなりまずいのでは?



力のことはひとまず置いておくとして、

あたり一面砂だらけで近くに人里があるようには全く見えない。


普通小説や漫画では街であったり城の中であったり、最低でも森など食に関しては問題なさそうな場所に転移する。

しかしここは砂漠だ。


食料どころかただ立っているだけでも日射によって体力を消耗する環境でただのサラリーマンがどう生活しろと?


はっきり言って詰みなのではないか?

そう考えると背筋に嫌な汗が浮かび、喉から何かが込み上げてきそうになった。



落ち着こう、焦っても状況は変わらないのだ。

ひとまず深呼吸、


すぅー、ハァー。

すぅー、ハァー。




よし、次に持ち物の確認だ。








「スマートフォン、会社で食べようと思ってたプロテインバー、お弁当、

鍵、財布、ライター、手帳、ペン、腕時計…。」


それに水筒のお茶、これが今私の持ち物全てである。


異世界にきた余波なのか、スマートフォンはスイッチを押しても黒い画面のままうんともすんとも動かない。



ライターは先週同僚と飲んだときに同僚が忘れたのを拾ってそのままポケットに入れっぱなしだった。


不幸中の幸というべきか、枯れた木の枝が点々と転がっているので焚き火は簡単に作れそうである。


だが、砂漠で生きるには心許ない装備であることに他ならない。




次の問題は水と食料


共に一食分しかない。

一日に食べる分量を一口分と見積もっても一週間も保たない。

食料を調達しようにも見渡す限りの砂で食べれそうなものは見当たらない。


サソリなど、地中にいるであろうムシを食べるとなると話は別だが、

その時私が耐えられるかは分からない。



問題といえばもう一つ、


「暑い…。」


この場に留まっていたらすぐに日射病になってしまうだろう。

あたりに日陰になりそうなものがないから、移動して見つけるしかない。


時計を見ると針は正午を指している。


地球と同じく太陽が東から昇り、西に沈むと考えて

今太陽がいる方向が南になる。


一先ず東に行ってみるかな。


先ほどから私が力尽きるのを待っているであろう鳥を無視して何もない砂漠を進むことにした。

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