努力で補う異世界B級サバイバル物語
夏男
第1話
満員電車に揺られていたはずだったのに気がつくと大きなホールのような場所に立っていた。
「どこなんだよここは⁉︎」
「なんでもするから帰してくれ!
この後大事な仕事が…。」
私と同じように気がついたらここにいたであろう人々が騒いでいる。
「え〜、静粛にっ‼︎」
突如、大きな声がして今まで騒いでいた声が静まり返った。
「え〜、突如としてですね、
このような、よく分からない場所に来てしまって、
さぞ困惑されているかと思いますが、静粛にお願いします。」
声の主の姿は見えないが、初めて見るメモを確認しながら話しているのか、その声にはあまり抑揚を感じなかった。
「え〜まず、単刀直入に言います。
この場にいる皆様は、誠に畏れ入りますが先ほど不幸にも死にました‼︎」
いきなりの死亡宣言に一度静かになった場がまたも騒ぎ出す。
「おい‼︎それどう言うことだよ⁉︎」
「そんな…。
じゃあここは一体…?」
「はい、静かにお願いします〜。
え〜っと、『強制失声コマンド』はっと、これ。じゃないね。
あっ、これか。」
次の瞬間またも場は静かになった。
しかし先ほどのような大きな声によるものではなく今度は声を出そうにも口から音が出なくなってしまった。
私たちは無理矢理黙らされたようである。
「そうですね〜。最初からこうした方が早かったかもです。
え〜、それでどこまで話したか…あ、そうそう皆様は死にました!
ただ、不安になることはございません。今回の件はこちらの管理不手際によるものでして、この死は無かったことにいたします。」
…なんだか訳が分からなくなってきた。
死んだが、それは無かったことになった。じゃあ今なぜ私たちはこんな場所にいるのだろうか?
「はい、ただですね〜。先ほども申し上げたとおりこちらの不手際で、皆様の死がですね…こちらのミスであるというのを発見するのに時間がかかってしまいまして、
すでに火葬場にて灰となってしまった方も多くいらしまして…。」
声の歯切れが悪くなった。
「つきましてはですね、皆様は特例として、違う世界にて生きていただく運びとなりました。」
違う世界で生きる?
いきなりのことで理解が及ばないところもあるが私はこれから異世界で暮らさなければいけないらしい。
私も現代ファンタジー小説などを好んで読む人間ではあるがこんなにもあっさりというか、何かメモを音読するような感じで異世界生活宣言をされるとは思わいもしなかった。
しかしそうなると気になってくるのはどんな世界かであるが、
「はい、皆様の中には薄々気になっている方もいるかと思いますが、
皆様にこれから生きていただく世界は所謂剣と魔法のファンタジー世界となっております。ドラゴンなどのモンスターが地上に跋扈しており、魔王なるものが世界を脅かそうとしている、大変治安がよろしくない世界となっております。」
魔王が世界を脅かしているのにそれを治安がよくないで済ます声とは、
しかしいざ異世界にと言われると恐ろしいことこのうえない
今までの常識が通用しない、最低でも今までの生活とは完全にオサラバしなければいけないのだ。
「はい、そんな世界に無理矢理送りつけるとは人権がーなど思う方々もいらっしゃると思いますが、ご安心ください。
皆様にはそんな世界でも皆様が基本的人権を尊重できるよう、一人一人にあった特別な力をこちらの方でご用意しております。そのお力をあちらの世界でうまく活用していただければ基本的には文化の違いはあれど問題なく暮らせるのかなと思っております。はい。」
おお、異世界で
いきなり死亡宣言をされ、今後は危険な異世界で生きろとほぼ強制的に物事が決まっており不安だったが、そういったものがもらえるなら案外頑張れるかもしれない。
むしろこれからの異世界での暮らしにワクワクしている自分がいた。
生まれてこのかた平々凡々に進学、就職としてきた自分がまさか小説や漫画の主人公のような非日常的なことを味わえるとは、つい先程まで夢にも思わなかった。
「それでは質問もないようですので、早速異世界の方に転送いたしますね。
えーー、と皆さんをドラッグして…ドロップ。」
次の瞬間地面が光だした。
あれよあれよという間に私を含めその場にいた全員は光に包まれやがて意識が遠のくのを感じた。
質問がなかったのは声が私たちを強制的に黙らせたからではないか。
そう心の中でツッコミながら私は意識を手放した。
「よし‼︎これでオッケー‼︎
それにしても人間はすーぐ死ぬから大変だよ〜。」
「先輩、お疲れ様です。」
「おう‼︎
俺の案内もしっかりしてただろ?
ポイントは簡潔に、だ。」
「はぁ、勉強になります。
…、あれ?」
「ん?
どうした?何か問題?」
「あ、いえ。
これなんですけど、一人一人に渡すはずの力が一個余ってません?」
「あれぇ?
ちゃんと個数が余らないようにチェックしたはずなんだけどなぁ。」
「それにここ、なんかこれ1人だけ変な座標に送ってません?」
「あー。そういえば、強制的に静かにさせるコマンドを打つときに間違えて入力しちゃったかも?
まぁ、力もあげたし大丈夫っしょ。」
「え。本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。
送ったのが小学生とかならまだしも中にはれっきとした社会人もいたし、なんとか自力で生きれるよ。」
「本当かなぁ…?」
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