103 明かされた真実 1


『あっ』


 目の前にはプリシラが座っていた。

 どこかの室内だ。

 ぐるりと周囲を見回し、彼女の他に誰もいないことを確認する。


「どうしたの? 急にキョロキョロしだして」


 俺は黙ってプリシラの顔を見つめていた。

 気持ちの整理が追い付いていなかった。


『ユリウス?』「もしかして、ユリウスなの?」


 一度に話し掛けないでくれ。


 夢の続きを引きっていて、俺はそれまで自分がどのように振舞っていたのか、調子を取り戻せずにいた。

 気が付いたばかりだというのに妙に頭が冴えていて、おかしな感じがする。

 眠りから覚めた、というよりも、唐突にその状況に置かれた感覚。

 これは今の今まで俺は、いや、ジョセフィーヌは、プリシラと二人で会話をしていたということだろうか。


『覚えてる? 貴方、ボートの上で気を失ったのよ?』


 その言葉でようやく状況が思い出された。

 あそこで気を失って、俺は……。


「大丈夫? 横になる?」

「い、いえ。大丈夫です。……ただ、少し混乱を……。何があったのか教えていただけますか?」


 俺が頭を押さえながらそう言うと、プリシラは、うわー、と言うような、驚きとも呆れとも付かない微妙な顔になった。


「やっぱり。別人なんだ。驚いた」『やっぱり追い出されちゃったわね』


 だから、同時にしゃべるなよ。


「本物のジョセフィーヌから大体聞いたわよ?」

『ごめん。喋っちゃった』


 俺はテーブルの上にあったカップを手に取り中を覗いた。


『大丈夫。水よ』


 さっきまでジョゼが口を付けていたカップ、ということは、これも間接キスということになるのだろうか、などと妙なことを思いながら中の水をあおる。


「先ほど、ユリウスと、おっしゃいましたか?」


 俺はプリシラが俺に向かってそう名前を呼んだことを思い出して問い返した。


「うん。だから、本物から大体聞いたってば。……そうだ。今のあんたが、本当に話に聞いたユリウスって男なのかどうか確認させてよ」


 それから話し出すまでには、しばらく心を落ち着け整理する時間が必要だった。


「……俺は、ヴィクトル・アークレギス・シザリオンの嫡男ちゃくなん、ユリウス・シザリオンだ。証明する方法は、ないけど……」

「はぁ……。まさか、本当に中身が男だったとはね。全然分からなかった。さっきの、本物のジョゼよりよっぽど王女様らしかったし」

『悪かったわね』


「ねえ。ジョゼは、そのぉ……いるの? 頭の中に」

「……ああ。前と同じように喋ってる。プリシラから王女らしくないって言われてむくれてるよ」


「ふぁー。あ、そう……。いや、ほんとかなぁ。演技じゃないにしても、二重人格とか……、うーん───」


 プリシラは興奮したように独り言をこね始めた。

 いくら口で説明されたとしても、こんな不思議なこと、当人たちでなければ容易には納得できまい。


「教えてくれ。俺が意識を失っている間、ジョゼが俺の身体を操っていたのか?」

「そうよ」


『また堂々と厚かましいこと言うわねぇ。私がー、私のー、身体を動かしていたのっ。さっきのが正常な状態だったのよ。ずっとあのままでいてくれたら全部元通りだったのに』「ほんと、最初はジョゼの頭がおかしくなったのかと思って焦ったわー」


 俺は目を閉じ、広げた掌を前に出して、二人の言葉を遮った。


「すまん。一人ずつ喋ってくれないか」

「分かった」『分かった』

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