十六着目「起死回生?強制退場?」
何とか、必死に食らいついて、面接を続ける事が出来た。
あれから、いくつかの質疑応答も、なんとか答えを引き出す事ができ、女性面接官が次の質問をした。
「皆さんはメイド喫茶には行ったことはありますか?もしありましたら、その感想も含めてお答えください。それでは、2番の方からお願いします」
僕は、あみちゃんと行ったメイド喫茶の事を思い出した。
「はい。あります。その時の感想は……思ってたよりも普通の喫茶店だと感じました。特にメイドさんとお話とかも出来なかったですし……
(やべっ!コンセプトカフェの面接に来てるのに、興味ないとか言ったら、面接に来てるの支離滅裂じゃん……)
あっ……!でも、初めてだったので、、こちらも常連とかじゃないから、仕方ないと思います……」
でも……執事さんがメイド喫茶に興味ありますって、ちょっと、お客側の幻想を壊す感じがするかも。
なんて答えれば良かったんだろう……
そんな事を考えていると、女性面接官がさらに質問をして来た。
「誰と行きましたか?」
「彼女と行きました!」
考え中にまさかの質問だったので、思わず咄嗟に答えてしまい後悔した。
あれ?こういう、お仕事って彼女いない方が良いのかな?
というか、今“いない”のに“いる”って答えちゃったようなもんじゃん。
咄嗟に『もう別れました』と言おうとも思ったが、面接の場でわざわざ言うような事でもないしな……
無難にお友達とか言っとけば良かった。
あ~モヤモヤする……
僕が、モヤモヤしている間に、イケちゃんとノッポ野郎も受け答えしており、気づくとチャラそうな男性面接官の質問に移っていた。
「皆さんは、ロビンズエッグブルーについてどのようなイメージや感想をお持ちですか?思った通りで構いませんので、お答えください。では、3番の方から」
「はい。ロビンズエッグブルーの世界観やサービスは、とても素晴らしく、有名な三ツ星レストランや高級ホテルのラウンジに匹敵すると感じております。
私自身も、ゆくゆくは、紅茶の資格やソムリエの資格を取れるよう日々研鑽する所存でございます。
ちなみに、私は、幼少の頃から武芸にも励んでおり……」
その後、延々と彼の自慢話を聞かされた……
へー、ロビンズエッグブルーってそんなに凄い所なのか~
クソノッポ野郎とか呼んでたけど、やっぱりちゃんとしてるな~
「次、1番の方お願いします」
「はい、私もロビンズエッグブルーには何度かご帰宅させて頂いており、その感想は、まさに夢の世界だと思います。調度品はどれも美しく、料理もあまりの美味しさに、毎回、舌鼓を打っております。
使用人の皆様もカッコ良く優しい方ばかりで、心の癒しだけでなく、目の保養にもなります。私もそのような夢の世界の住人の一人になりたいと思います」
夢の世界の住人か~、確かに、現実なんて全部ほったらかしにして、どっか行っちゃいたいな~、何となく、イケちゃんの気持ち分かるわ~……
「ありがとうございます。じゃぁ、一応2番の方も」
チャラ面接官の言い方に、僕はガックリ来た。
じゃぁ、一応って……もう落とす気満々かよ……
「すみません、私自身“ご帰宅”した事ないんですけど~」
どうしよ……前の二人みたいに、ちゃんとした事言えない……
「ええ、もちろん大丈夫ですよ。あなたの感想があれば、ぜひお聞かせください」
「はい、かしこまりました」
なるべく、平静を装っていたが、言葉が出ず僕は焦っていた。
「少々お待ちください。少々お待ちください…少々お待ちください……」
頑張れ夕太郎!頑張って引き出すんだ!チャンスは、もうここしかないぞっ!……
落ち着け、落ち着け、冷静に考えるんだ。
冷静に……僕がテレビで観た感想と前の二人の感想を統合すると……
「メディアは、イケメン執事がいるカフェみたいな紹介の仕方でしたが、それは本質ではないと思いました。
一言で言うと、いつでも帰る事の出来る居場所だと思います。帰る所というのは、実際の場所もそうですが、一つの概念だと思います。
やはり、みんな誰しも何かしら辛い事や、悩み事等を抱えているワケで……
例えば、ある人にとっては、家庭が安心の場所ではないかもしれないですし……またある人は、仕事が上手く行っていないかもしれない。
もしかしたら、最近、大切な人に裏切られたかもしれない。
そんな人達の為に、執事として、出来ることは、ほんの些細な事かもしれません。
ですが、それでも……え~と、ごめんなさい。上手く言葉では言えないんですけど……
例えばそんな風に、人生に疲れてしまった時に、現実から一歩離れて、心を休める癒しの場所として、少しでも羽を休める為に、誰でも帰れる所が、ロビンズエッグブルーカフェの本質であり、そんな人達をいつでもお出迎えするのが、私の目指す執事だと私は感じました」
あっ……咄嗟に答えてしまったが、これって、全部僕の事じゃん……
自分で言ってて、悲しすぎる……
『………………』
僕が答えると、まるで、水を打ったように辺りは、シーンと静まり返った。
あれ?いま変な事言っちゃったかな?何かマズイ事言っちゃった?やらかした?もしや、強制退場?
ヤバイ……ヤバイ、ヤバイ!
「ああ!もちろん。普通にハッピーな人も全然ご帰宅して構わないですし、幸せに越したことはないと思います!」
もう、絶対ミスできないので、必死にフォローの言葉を探った。
「フフッ」
直立不動でピクリとも動かなかった執事から、一瞬笑みが漏れたように感じた。がしかし、メガネが照明に反射して表情までは読み取れなかった。
「……はい。ありがとうございます。
では、次に実技テストを行います。
それでは、ここからは、吉野執事お願いします」
「かしこまりました」
執事は静かに答えると、銀縁メガネを中指でクイッと直した。
メガネを直す仕草も洗練されており、格好良かった。
しかし、見とれている場合ではなかった。
実技てすとぉおおお?
聞いてないよおおおおーーー!!!
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