十五着目「ご近所のプライドにかけて」
女性の面接官から、ナンバープレートを手渡された。
どうやら、面接は名前ではなく、プライバシーの観点から、番号で呼ばれるらしい。
僕は、二番のナンバープレートを貰った。
右側に座っている、十代後半位のカワイイ系のイケメン君は、一番だった。
よし、カワイイ系イケメンだから、イケちゃん、と勝手に呼ぼう……
左側に座っている二十代半ば位の爽やか系イケメンは3番だ。
よし、こいつはノッポだ。
座ってるから、身長はわからないけど、多分、背が高いから、ノッポ君と呼ぼう……
二人とも、僕よりも若そうだ。一般的に考えると、この戦い、年齢的にアラサーである僕が、圧倒的に不利だ。
でも、僕だって、近所のおばちゃん達から、イケメン俳優の向井里に似てるって評判なんだ。
ご近所の向井里のプライドにかけて、ここで負けるわけにはいかない。
頑張らなければ……
「皆様、本日は、ロビンズエッグブルー執事募集の面接にお越し頂きまして、ありがとうございます。それでは、早速面接を開始します」
女性面接官が進行を始めた。
すると、「はい!」
志願者二人が、一斉に元気よく返事をした。
きっと、こういう段取りなのだろう……だからさ~、教えてくれよ……仲間外れは、やーよ……
「あっ……はい!」
半歩遅れて僕が返事をする。
「準備はよろしいですね?」
若干、女性面接官に睨まれた気がする。
僕は、蛇に睨まれた蛙のように、女性面接官の目を離さないよう軽く頷く。
「それでは、皆さんも緊張してるでしょうから、少しリラックスした質問にしようかしら?ウチは、紅茶をメインに提供していますが、皆さんはどのような紅茶がお好きですか?それでは、一番の方からお願いします」
「はい。私は、アッサムティーが大好きでして、夜寝る前に、ナイトキャップティーとして、ミルクたっぷりのアッサムティーを一杯飲むと、一日の疲れが取れ、よく眠れます」
イケちゃんが、ハキハキと答える内容を聞いて、僕は疑問に思った。
なぬ?アッサムとは、なんぞや?なんかの、モビルスーツ的な名前か?……
そもそも、家では麦茶一択だろ?イケちゃんは、わかってないよ~。これだから、近頃の若いもんは……
「はい、ありがとうございます。アッサムミルクティー落ち着きますね。それでは、二番の方はどのような紅茶が好きですか?」
やべっ……そういえば、最近、社長に奢って貰ったエスプレッソと真夜中の缶コーヒーしか飲んでねぇ……
「はい。いや~そうですね~。最近、紅茶とかあんまり飲んでなくて~、どっちかっていうと、仕事終わりの缶コーヒーを夏でもアツアツのホットを飲むと五臓六腑に染み渡ります」
「あの~、二番の方すみません。一応メニューとして、コーヒーの提供もありますが、ロビンズエッグブルーは、美味しい紅茶100選にも選ばれる、”紅茶が自慢”のお店なんですが、コーヒーの方がお好きでしたら、そのようなお店を受けられた方が私は良いと思うのですが、その辺は大丈夫でしょうか?」
さっきより、一層僕を睨みつける女性面接官。
ぶっつけ本番とはいえ、流石にこれは、僕の受け答えが悪すぎた。
調べる時間が無かったとはいえ、執事ばかりに目を奪われて、そういえば、オススメメニューとか全く気にしてなかった。バカバカ!ダメだ僕の完全敗北だ……
「はい。でっでも、紅茶ももちろん大好きでありまして、スーパーとかで売ってるお徳用ティーバッグとか……」
もうしどろもどろで、声が上ずり、どんどん印象の悪い事ばかり口にしてしまう。
「……はぁ」
溜息をつく女性面接官。
うぅっ……なんで毎回、面接で呆れられてしまうような事ばかり、口走ってしまうんだ……
「ハハハッ、もう彼は、その位で良いんじゃありませんか?さすがにちょっと可哀想で、同情してしまいます」
そう話始めたのは、ノッポ君だった。
そして、彼は、さらに衝撃的な言葉を僕にぶつけた。
「彼の場違いな服装や受け答えを見る限り、一夜漬けが良い所。この面接に懸ける志は、さほど高くないと思います!フッ。どうせ、テレビの特集とか観ちゃって、夢見ちゃった系でしょうから、これ以上現実を見せるのは、かえって可哀想だと私は思います!」
そう言って、クソノッポ野郎は、勝ち誇らしげに髪をかき上げた。
もう!なんだよアイツ!アイツなんかに“君”なんて付けてやるか!あいつは、今から敵だ!クソノッポ野郎め!
そうだよ!図星だよ!アラサーのおっさんが夢見ちゃ悪りぃかよ!……
図星だけに、恥ずかしさで顔が真っ赤になり俯く僕に、女性面接官が話しかけてきた。
「ごめんなさいね。正直言って、私も3番の彼の言う事も一理あると思うの。多分、これ以上、この面接を続けても、きっと2番のあなたは、辛くなるだけだから、今からでも辞退して頂いても構いませんよ?」
「フッ、ご愁傷様」
憎たらしい微笑みを浮かべ、髪をかき上げるクソノッポ野郎。その仕草を見て、僕に闘争心が湧いた。
絶体絶命の大ピンチ、だけど、コイツだけには負けたくない!負けたとしても最後まで絶対に諦めずに戦ってから負けてやる!
面接は絶望的だが、コイツをみると、ぜーーーーーったい!諦めたくない!!!
「正直申し上げて、勉強不足だった点、本当に申し訳ありませんでした。
それに、彼の言う通り、皆さんからみたら、僕なんて、きっと夢見ちゃった系なんだと思います。それも否定しません。
でも、それでも……僕は、あの執事の特集に感動したんです!執事さんの所作のあまりの美しさに興奮したんです!
執事さんが、お嬢様に紅茶を注いでる場面が何度も何度も夢に出てきました。
その位、今でも僕の中で印象に残ってるんです!その位、僕にとって衝撃的な出来事だったんです。
その想いだけは、本物です!
だから、もしかしたら、また皆さんに無礼な事や失礼な事をしてしまったり、言ってしまうかもしれません。
その時は、強制退場にでもしてください。最後のチャンスを一回だけ下されば、僕には、もう未練はございません。
この面接で、僕の想いだけは、どうしてもお伝えしたいです。
その為に、ここへ来ました。どうか続けさせください!お願いします!」
僕は、目の前の面接官達に頭を下げ、お詫びをした。
「お願いします!」
続けて、イケちゃん、にも頭を下げた。
「お願いします!」
内心、はらわた煮えくりかえる程ムカつくけど、クソノッポ野郎にも頭を下げた。
「そこまで、言うなら私は構いませんが、他の方々はいかがですか?」
他の面接官の了解を取る女性面接官。どうやら面接官サイドは赦してくれるらしい。
「チッ!」
その様子をみて、クソノッポ野郎が静かに舌打ちをしたのが聞こえた。
僕は、聞こえないフリをして、真っすぐ前だけを向いた。
なんとか、絶望からのギリギリ復活……
しかし、状況が好転したわけではない、身から出た錆とはいえ、いやはや、これからどうなることやら……
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