十四着目「初めて見た本物の執事」

 勢いあまって執事の募集に応募した。

 僕は、その二日後には、もう面接会場にいた。

 途中、“お嬢様ロード”なる通りを通ったが、すんげー変な街だった。


 おっと、いっけね、今は面接に集中、集中……


 そうは言っても、準備期間が全く無く、面接で言う内容も全くまとまらなかった。

 室内をキョロキョロ見渡すと、志願者は僕を含めて3名。


 だが、明らかに僕だけ、ぶっつけ本番なのが分かった。

 服装が、他の二人とは全く違っていた。

 二人とも、まるで、これから結婚式に参加するかのような、キラキラした生地のシュッとしたスーツを着ていた。

 既に見た目から執事っぽい格好に、完全に僕は萎縮した。


 だって……いつも着ているグレーのパーカーに、ベージュのチノパンで来ちゃったもん☆(涙)

 それに、スーツは、怒ってタンスにぶち込んだから、タンスの中でグチャグチャのシワだらけ……


 マジか……バイトの面接だぜコレ……

 僕だけ完全に、場の雰囲気に浮いていた。


 愚痴りたくもなるが、一つあることに気付いた。

 ふと、三脚に取り付けられたビデオカメラに目をやると、なんと赤いランプが付いている。


 あっ、録画されてる……


 そう、既に面接は始まっているのだ。これは予測だが、きっと、待機中の様子も評価されるのだろう。

 だから、他の二人はキョロキョロしたり、雑談などもせず、キリっと背筋を伸ばし、微動だにせず、待機しているのだ。

 きっと、この二人の志願者は、準備万端で、撮影されてる事も下調べで事前に知っていたのだろう。


 こんなのズりぃよ~、てか教えろよ同志だろ?……

 と思いつつ、他の二人のマネをして、僕も背筋を伸ばしキリッとしてみた。


 すると、志願者三名の姿勢が整うのを待っていたかのように、面接官が二人、入って来た。

 一人は、茶髪で元ホストっぽい、チャラい感じのする30代後半くらいのビジネススーツを着た男性と、もう一人は、黒髪のポニーテールで白シャツに黒いカーデガンを羽織った40代くらい、真面目そうな女性だった。


 うわぁ~、本当に三人の姿勢が整うの待ってたんだ~。こんな事するのって、なんかいじわるぅ~……

 と、心の中で毒づいていた矢先、衝撃が脳天に直撃した。


 僕の眼球には、キラキラのエフェクトが掛かり、スローモーションで一人の執事が入ってくる様子が映し出された。


 ピカピカに磨かれた黒い革靴が、ゆっくりと僕の目の前を横切って行く。

 光沢感のあるグレーのスラックスが上品に輝き、ジャケットの裾が華麗に揺れる。

 身長は180cmくらい、髪型はオールバック。一重瞼の鋭い目つきに、銀縁メガネ。年齢は、30歳代くらいの執事だ。

 その執事は、二人の面接官が腰掛けているデスクの一歩後ろの位置に着き、直立で待機した。

 これまでの動き、仕草の全てに気品あふれ、単純にカッコイイ!


 僕は、知らず知らずのうちに、童心に返っていた。

 まるで、戦隊モノのヒーローを観る目で執事を眺めた。


 普通の会議室が、執事が入室しただけで、優雅な空間に世界が様変わりした。


 そうか、これが執事の魅力……

 きっと、どんなに豪華なシャンデリアや、高級家具、立派なお屋敷があっても、執事がいなけりゃ意味がないんだ。

 逆に言うと、執事さえ居れば、どんな場所も特別な空間になる。

 それくらい、本物の執事とは、象徴性のあるものなのだ!


 例えるならば……空間を綺麗に浄化するファ〇リーズみたいなものだ!!

 違うか……違うよな……


 例えは上手く思いつかなかったが、そのくらい執事は凄かった。


 うわぁ~、ホンモノだ~。カッケー!ホンモノの執事に会えた~……

 面接を忘れ、完全にテンションが上がってしまった。


 テレビで観た人とは、違う執事さんだけど、前にテレビで観たのよりも、すげぇカッケーのキター!……

 僕は、キョロキョロして、二人の志願者の格好を眺める。そして、目の前の執事へと目線を往復する。


 うわぁ~、やっぱり、”執事っぽい”のと“本物の執事”では全然違うな~……

 お気づきだろうか?さっきから、僕の心の声は、失礼な事ばかり言っているのを。


 そりゃ、ハマるわ……

 今の僕は、完全にお嬢様目線だ。

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