3. メティア・フォン・ブラスローン

「いやあ、楽しかったけどね?」

「仲間を庇ってバジリスクに石化された、ですか」

「ここに来たってことは、ヒーラーもやられたの?」

「いいえ、あの魔物が石化直後のあなたを粉々に砕いたのです。それでは魔法でも治せない」

「今回はわざとじゃなかったんだけどなあ」


 前回はわざとか、この野郎。

 む、救命は善行。私としたことがいけませんね。

 転生先を探すのは肩と目に来る。二、三日ショボつくくらいには目の負担が酷い。単なる紙を捲っているのとは、わけが違う。


 私の嘆息を無視して、レイはまたもやリクエストを出してきた。


「てぃーえす、無理かな?」

「てぃーえすとは、何でしょう」

「女を試してみようかなって。悪役令嬢をやってみたいオーホッホ」


 そんなものまで読んだのか。

 勉強熱心も度が過ぎているのでは。


 貴族家の令嬢に生まれ変わるのは、まあ可能だ。

 一代目のレイも伯爵家だった。

 問題は“悪役”の部分で、そこまで指定されると本当にウルトラ面倒臭い。


「そこを何とか。よっ、神様! イケメン! 腐女子人気高そう!」

「……時間がかかりますよ?」

「ぜーんぜん平気。あっ、婚約破棄できる感じでお願いね」


 検索の条件指定を駆使して、膨大な選択肢を吟味していく。

 過去の資料を読み、未来の予測を検討し、悪役令嬢に該当しそうな者を懸命に探した。


 ゴロゴロと床で寝転ぶ男を横目に、細かな情報に浸ること三日。

 なぜこんな目にと自分の人の、いや神の良さを愚痴りつつ、遂に適当な転生先を発見する。


「これは……こめかみに来ますね。てて……」

「おお! 見つかった?」

「ありましたよ。メティア・フォン・ブラスローン、公爵家の長女です」

「おっけ! 婚約者は?」

「おそらく第二王子と婚約する流れかと。王子の好みは庶民派なので、高貴さをアピールすれば逆効果、つまり嫌われやすいかと思います」

「その辺りをどうコントロールするかってことか。腕の見せどころだね」


 異世界だろうと現実は、ゲームやラノベのようには進行しない。

 悪役令嬢を演じ、望むシナリオ通りに生きるのは骨が折れることだろう。

 だがこの男はどうも実現しそうな気もする。


「無理に人を助けないように」

「神様らしくないセリフだなあ」

「死はリセットではありません。あなたを愛する人たちを決してないがしろにすることなく――」

「分かってるって。じゃあ、また頼むね! 楽しみぃ」


 絶対に分かってないだろ。

 精々、うんざりした顔を見せつけつつ、私は彼を送り出した。


「行け、新たな人生へ!」

「行ってきまーす! またね!」


 やめて。

 フラグ立つから「またね」はやめて。

 回収したのは、十四年後だった。

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