2. レイ・クライス・メイフィールド

 レイの世界でいう十年が経ったとき、彼は火事に飛び込んで赤子を助ける。

 治療師ヒーラーが到着した際には既に遅く、レイは重度の火傷で事切れたあとだった。


「今回は苦しかった。あんな痛い死に方はキツいな。ゴフゴフでヒリヒリでグギャアァって」

「……覚えてるんですね?」

「おうともさ。次もファンタジー異世界でいいよ。サクッと同じ世界でもいい」

「異世界って、いやもう“異”は要らないでしょう」

「その辺り混乱するからさ。魔法があるのは異世界ね。んで、リクエストがあるんだけど」

「いいでしょう。赤子を助けたのは立派な行いでしたからね。どんな転生先がお望みですか?」

「場所は同じとしてさ……」

「はい」

「特典付けられないの?」

「は?」

「転生特典。チートっぽいやつ」


 重田時代に、かなり要らない知識を蓄えてしまったらしい。

 年寄りが何を読んだんだ。ラノベだろ。

 彼の要望は他者を圧倒する力であり、さすがにそんなリクエストには応じられなかった。


 レイとして生きた年齢は十年、子供の思考に引き寄せられたのか、彼は駄々っ子そのものな言動でゴネにゴネる。

 白い床に大の字で寝そべり、両の手足をバタバタさせて喚くこと喚くこと。


 しかしながら、命を救ったのは事実である。

 子の両親は、レイの亡骸なきがらの前で頭を擦りつけて感謝していた。

 いや、現在進行形で擦り中だ。


「……魔法適性なら」

「お! 大賢者? 大魔導士とか目指せるやつ?」

「全属性が会得できる素質を授けましょう。この世界なら四元素プラス光闇、おまけで時空の八属性が習得できるはずです」

「すげえじゃん! 回復も転移も時間停止もできるってことでしょ。まさにチート!」

「あくまで素質です。魔法を修められるかは、あなたの努力次第。そこは他者と変わりありません」

「火しか使えなくてガッカリだったんだ。生まれ持った素質が大事なんだよ。努力チートってやつだろ? ん、違うかな。まあいいや、それで行こう!」

「では少々お待ちください」


 次の名前はレイ・フーリッツ、レイが被ったのは偶然、ではない。

 選定が面倒臭くなって、名前検索機能を行使したからだ。

 本人も混乱しなくていいだろう。


「えー、名前一緒なんか。新鮮味に欠けるなあ」

「黙らっしゃい」


 転生先の選択は神聖にて、超面倒な仕事なのですぞ。

 この男、どうも不安なのだが。

 今回は故意に死んでないよね?

 答えが怖くて、最後までその質問はできなかった。


「行け、新たな人生へ!」


 何も願わない。フラグは立てない。

 その思考こそがフラグだと、十五年後に知った。

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