第4話 寛之(ヒロユキ)オリバー.平匡(ひらまさ)

オレはオレを語るのが好きじゃない。

けど、自己紹介をしろと言われたら頑なに拒否するのも面倒臭いからするよ。


他の4人とは違い、オレがみんなと出会ったのはこのパブリックスクールに入学してからだ。

つまり、まだ4年かそこらの付き合いだ。


オレは日系イギリス人の父と日系スウェーデン人の母の間に生まれた。

母方の血にスウェーデン人がいるから見た目はほんの少し北欧人っぽい色素が薄いノッポの日本人と言う感じだ。

親の事業は幅広くて何が本業なのかは分からない。

もしかしたら堅気ですらないかも。

上に3つ違いのおっかない姉がいる。


生まれも育ちもスウェーデンだが、日系人ってだけでイギリスでは差別された。

ガキ臭い厭がらせなんか別に痛くも痒くもなかったが、見兼ねたカナタがオレに声を掛けてくれた日から周りの態度が一転した。


昨日までオレを見下していた連中の視線が、カナタ達の中に入り込んだだけで羨望の眼差しへと変わって行く様は小気味悪くて滑稽だった。


どうしてオレを庇った?

放って置いてくれても構わなかった、とカナタに放った事もあった。


「君は遠縁でもスウェーデン王族の血筋をひいているセレブリティーだ。

それぞれの立場は違えど同じ日系の同族じゃないか。

それに君には気高さと孤独に対する強さがある、僕は君のそんなところに強く惹かれている。

だから、どうか僕らと友達になってくれ。」


そう言ってにっこりと笑いながら右手を差し出してくるカナタに、オレは警戒しつつも右手を重ねた。


今までオレに近づこうとしてきた連中はオレのバックにいる親の権力に群がるハエみたいな奴らだったけど、そもそも大金持ちのカナタ達にはそんな必要もない。

ただ純粋に友人として迎え入れてくれた。


カナタを筆頭にレインやルイ、ショウジは学園の模範的な優等生だ。

そうある事を演じて、裏では校則を破って夜の街へと繰り出している。

お坊ちゃんらしくクラシック音楽にどっぷり浸かっているかと思いきや、いきなり4人でやっているバンドに入れと誘ってきたから驚いた。


カナタがオレに求めたのは品行方正である事でも優等生である事でもない。

ましてや監督生になる事でもない。


カナタに求められたのはその真逆。

バンド活動が出来る場所の提供と夜の街での遊び方を教える事、悪い連中との関わり方や悪事の作法と女の斡旋とかその他諸々。


カナタは入学前にオレの素性をある程度調べていたんだと思った。

曽祖母がスウェーデン王国の王族だという秘密も、オレが一部のイギリスヤンキーを束ねている事も知ってて近づいてきた。


親や親近者ですら知り得ない情報まで、どうやってカナタが仕入れてきたのかは分からない。

だが、あの時差し出された手を跳ね除けなくて良かったと心から思った。


カナタを敵に回すのは怖い。

生涯を彼に捧げるほどの忠誠心はないが、カナタみたいな人間が側にいれば此の先きっと退屈はしないだろう。


昼間のお行儀の良いお坊ちゃん達が夜になると悪ガキになる様は見ていて面白い。





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