第3話 葛木 章司
俺の名前はショウジ.カツラギ。
両親共に英国在住の日本人、幼馴染連中の中で唯一日本国籍を持つ。
父は交響楽団の指揮者、母はその楽団のヴァイオリニストでコンサートマスターだ。
ヨーロッパは音楽の功績があれば人種に関わらずそれなりの地位が保たれるようで、両親も例外ではなく女王陛下から爵位なるものを授かった。
末端とはいえ一応は貴族の一員になった事から英国一のパブリックスクールへの入学を許可された。
気心知れた友人達と同じ学校へ行けた事はラッキーだが、これには策略家のカナタが親を巻き込んだ何らかの計画を立てたに違いないと思っている。
入学してからカナタにどんな手を使ったのか尋ねたが、彼は笑顔で「お前だから当たり前に入学できたんだよ。」とはぐらかすだけだった。
親同士が同じ職業の俺とカナタは赤ん坊の時から一緒にいた。
兄弟も同然、カナタとカノンは自分の親より俺の両親に懐いていたし学校やレッスンを含めて寝る時以外はずっと同じ時間を過ごしてきた。
「俺だけ中学から違う学校へ行くかもな。」
なんて呟いたら隣に座ってヴィオラを弾いていたレインが「それは無い、カナタがお前を手離すわけない。」と真剣な眼差しで返したっけ。
どんだけ耳がいいんだと呆れたが、その言葉が嬉しかったのを鮮明に覚えている。
カナタは儚くて危うい。
みんなは彼を絶対王者タイプの強い男だと思っているが、実は違う。
誰よりも繊細で寂しがり屋だ。
だから自分の大事にしている物への執着が異常にある。
手にしたい物は何がなんでも取りに行くし、手段は選ばない。
だから、レインの言葉に期待した。
俺はただ、カナタの指示通りにヴァイオリンのコンクールで1位を取り続けただけ。
同じコンクールでカナタとぶつかった時もあったが、カナタは上手くミスをしてワザと負けたりもしていた。
悔しくはないのか、プライドは無いのかと影に尋ねられれば俺は胸を張って「全然。」と答えるだろう。
だってヴァイオリンの腕前は俺もカナタも対して差は無いし、同年代の他の演奏者に敵はいなかったから。
俺は一つのミスもなく完奏する事の努力を惜しまない。指が切れ弦に血が滲もうが、腕が上がらなくて痛み止めを打とうがどうでもいい。
ただ、カナタやみんなと一緒に居られれば他には何も要らないから。
今日もこうして5人並んで同じ燕尾服を着て歩ける事に幸せを噛み締めている。
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