第3話
我が名はイム。誇り高きグリーンスライムである。
最高の英雄たる我だが、現在強敵に苦しめられている。
「おい!羽虫野郎!降りて来やがれ!」
「ざまぁと言った事だけは許せん!我の役割を奪いおって!」
「……イム、口調が崩れてますよ。」
妖精の長アリーが蜂蜜酒を差し出してくる。
どうやら熱くなり過ぎていたようだ。渡された酒を飲み、何とか気持ちを落ち着ける。
「考えてみたら、東の地に向かうのが遅くなれば全てが丸く……、ッハ」
「……アリーよ、魔法を解いてくれ。」
ヤベーよ。本心を喋る魔法をかけられたままじゃねーか。アリーから冷気出てるよ。
「東の地の詳しい情報を教えてくれ。救世の勇者として全てを救ってやろうではないか。」
ヤケクソ気味になりながら宣言する。最弱のスライムが救うって無茶苦茶過ぎるんじゃなかろうか。
「今彼の地は魔力欠乏によって不毛な大地へと姿を変えています。イムにはその速度でアイテムを運んで貰いたいのです。」
「魔力欠乏だと…?」
「はい。自然の営みが壊れ、バランスが壊れてしまったようです…。」
悲しそうにアリーが告げる。
「…フム、何を運べば良いのだ?」
「世界樹の実には劣りますが、エリクサーや聖水、宝玉、ハイポーションをお願いします。」
「そうか、よくぞ我を頼ってくれた。韋駄天との異名を持つ我が全てを救ってみせようぞ。」
「………信じて良いのですか?」
微妙な顔で聞いてくる。何か一気に信用を無くしている気がするが、気にしたら負けだ。
「勿論だとも。我は契約の奴隷、アリーの忠実なる騎士よ。彼の地に調和と安寧を届けて進ぜよう!」
「そ、そうですか。私の騎士なら全てを任せられますね!頼みましたよ!」
我の言葉にすっかり調子が良くなり、とんとん拍子で話は進んだ。
道中の危険を避ける為に透明化の秘薬と魔法の袋も追加で貰い、いざ出発だ!
(…妖精族のアイテムは秘宝ばかりだな。余り怒らせるのは危険な気がする。)
渡されたアイテムに少し引きつつも心は晴れやかだ。
何故かと言うと『魔力欠乏による砂漠化』、その解決方法を知っているからだ。
人間世界では割とよく起こる現象で、対策もそこまで難しくない。
アリー達は人間と関りが無いから分からなかったのだろう。
(深淵なる叡智(前世の記憶)が有って良かった。農民もやってて良かった。)
冒険者なんて早々に引退して畑を耕していた気もするし、流石は前世の我。
魔石を確保する為に、人間の街で難易度イージーの
これだけのアイテムが有れば楽勝だろう。以前草原へと侵略されたし、魔石の窃盗など可愛いものだ。
草原に程近い城塞都市までビューっと進み、ビャーッと魔石を盗み出した。
(ふ、他愛ないものよ。我にかかれば一行で終わる。)
近くの古びた洋館にも魔石が有ったからついでに奪っておいた。
これだけ有れば足りるだろう。後は東へ赴くだけだ。
魔石で解決出来れば後のアイテムは貰って良いだろう。今から楽しみだ。
つい「グフフ」と声が出てしまう。人生はバラ色だ。
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『我らが同胞を侮辱した事、心底後悔させてやろう!この世から失せるが良い!!!」
だと言うのに、今、この世からの追放が言い渡されている。
(おかしいだろ!我って今絶賛追放中のハズだよな!?)
草原からの追放中に追放を言い渡されるとは、上級者となると世界の理から解き放たれるのかも知れない。
そう思いながらも現実逃避する。眼前のドラゴンを直視すれば意識が飛びかねん。
現在の場所は山の麓、辺りには大きな骨が転がっている。先程まで骨をじっくり味わっていたらコイツがやって来たのだ。
あの骨は旨かった。コッソリいくつか袋にしまっておいて本当に良かった。
『強者相手ならいざ知らず、スライムに墓場を荒らされるなどドラゴン族の恥!滅してくれる!』
ヤバイ。口に光が集まりだしている。既に意識が飛びかけているが、何とか踏み止まらなければ!
『世界の頂点の一画を担うモノよ!鎮まるが良い!我が名はイム!西の妖精女王の信任を受けた騎士である!』
女王かどうかは知らんがハッタリが重要だ。未だかつて無い危機を何としてでも逃れなければ。
『我は東の地を救えと女神から神託を受けた!この地に眠る竜の力をお借りしたい!』
女神なんて会った事も無いが大丈夫だろう。前に世話になった河童の妻も女神と崇められていた気がする。
更に言うならムッチャ食事していたが、勢いで押すしか無い。
『なんだと!!?グヌヌ…証拠を見せるが良い!』
グヌヌって久しぶりに聞いたな、と思いながら渡されたアイテムを見せる。
『…ムゥウ…。確かに、妖精女王と縁の有る魔物のようだ…』
凄い悔しそうにしてる。ムッチャ『ざまぁ』って言ってやりたいが何とか我慢する。
言った瞬間消される未来しか思い浮かばん。
『分かってくれたようだな。我も世界の命運を託されたモノ。急ぎの身故失礼するぞ。』
そう言ってその場を離脱する。長居すると余計な事を喋りそうだ。
追加で骨を貰っておく事も忘れてはいけない。
何かドラゴンが『いつか戦おうぞ』とか喋っていたが、曖昧な言葉を返しておいたので大丈夫だろう。
あんなのと戦ったら塵も残らんわ。
その後の旅も
ラミアやハーピィの里で果物に襲われ、ドワーフの里では酒の毒から皆を遠ざけた。
ケンタウロスの集団は狩りで獲った獣肉が呪いを受けそうになっていたので保護してあげた。
ドラゴンと対峙した時程では無いが皆強敵ばかりだった。
請求は全て妖精達に回しておいたが、世界の危機の前には些細な事だろう。
---
「救世の使徒イム、古き盟約に従いこの地を救済に導こう。」
エルフの里につくと、早速長に挨拶だ。
何故か歓声の声が上がらないが、緑が枯れ果てた地だ、皆の心も乾いているのだろう。
「よくぞ来てくれました…。勇者イムよ。…道中の話は聞いています。ここでは静かにお過ごし下さい。」
どうやら我の英雄譚を知っているようだ。有名人になると言うのは辛いものだな。
「そ、そうか、だが安心するが良い。我が来たからには全てが解決に向かうだろう!」
少し声が上擦ったが、ここから巻き返しだ。
宣言と共に魔石を広場中に吐き出す。流石は一都市の在庫だ。この小さな広場には収まりきらないくらいある。
「おお!素晴らしい!」
言いながらも続きを期待しているような感じがする。
魔石で十分だろうと思い、華麗なプルプルを披露してやる。
「……魔石しか無いようですが?」
先程の歓声は鳴りを潜め、長老の背後に風の精霊が集まって来ている。
(そうか、魔石で十分だと知らないのか。)
長老を哀れに思い、優しく説明してあげる。
「精霊の守り人よ、砂漠化を止める秘儀を知らぬのか…。真理の探究者たる我が教えてやろう!魔石が有れば全てが解決すr 「しません。」」
我の大見得を途中で遮られてしまった。礼儀の知らない奴だと気分を害しながら続きを待つ。
「イムの言う秘儀とは人間族の技術の事でしょう?アレでは防ぎきれないのです。この地の砂漠化はもっと深刻です。」
「な、なんだってーーーー!!」
ッハ、余りの驚きにUMAを探しに行きそうになってしまった。見果てぬ夢を追いかけるのも悪くないかも知れない。
「妖精達の贈り物だけでは厳しいかと思っていましたが、イムが竜の骨を譲り受けてくれたお陰で何とかなりそうです。さ、全て出して下さい。」
そう言いながら近づいてくる。微笑みを浮かべながらもその瞳は一切笑っていない。
(ヤベーよ、長老だけで無く周りのエルフ全員マジだよ。おうち帰りたい。)
余りの恐怖に軽い幼児退行を起こし、身ぐるみを剝がされるのだった。
---
「道中の飲み食いの分も働いて貰いますからね。」
作成した薬を休みなく運ぶ事になり、地獄の日々を送るのだった。
「我にも救いを!」
最弱のスライム、仲間から追放され続けて『はぐれスライム』となる。え?仲間になってほしい?速度が違い過ぎて難しいな。 アタタタタ @atahowata
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