りょうじんえいのそこ

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 寒い日が続いている。うっかり、外で眠ったら、そのまま二度と目覚めないくらい、寒い日ばかりである。

 もはや、目を開けて起きていることが、命綱の世界。

 で、そんな寒い日、朝の港を歩く。海上には、かもめが、きゅわぁー、きゅわぁー、と鳴きながら飛んでいる姿があった。もしも、かもめの言葉がわかったら、さみい、さむい、と言っているのではないか。そんな妄想もはかどった。

 港には多数の船も停泊してた。そして、いつも通り、筋骨たくましい身体をした荷役者たちが、他大陸から運ばれて来た、あるいは、ここから他大陸へ運ぶ荷物の船へ積み降ろし作業を―――。

 して、いない。

 荷役者の姿がない。どこにもいない。誰ひとり、積み降ろし作業をしていなかった。

 いや、ふだんなら、港のそこかしこで荷物の積み降ろしているのに。

 もしかして、今日は港全体が休みなのか。

 と、思っていると、やがて、その場面に出くわした。

 筋骨たくましい身体をした者たちが、その場所に一堂に会している。その数、およそ、百人は越えていた。みな、力持ちそうな者たちである。そして、みな、この寒い中、上半身は薄手の袖なし服で、太く血管の浮き出た太い腕をむき出しにしている。なかには肌に刺青を入れている者もいた。

 一団は、異様なほど殺気立っていた。離れた場所からでも、一団から殺気が、もわもわ、と、むせ返りそうなほど、わいているのがわかる。

 そして、一団の前に、一人の男が立っていた。他の者たちより、ひときわ、たくましい男だった。年齢は四十歳くらいだろうか。

「いいいいかぁ諸君ぅぅ!」

 男は吠えるように一団へ声をかけた。

「組合として立ち上がりぃ! 会社に立ち向かうんだぁ! そして俺らぁの権利を勝ち取るんだあああぁ!」

 彼が右手の拳を突き上げて言い放つと、一団が同調して声をあげた。ごごごごご、と、港が揺れるような強力な叫び合体だった。

「いまから全員で会社の奴らのところへ行くぅ! こっちの意思を、ばばばどばーんと、会社に知らしめてやるんだああああぁ!」

 彼がそう提案すると、一団はふたたび、ごごごごご、と、合体した叫びを放った。

 すさまじい気合である。一団の中には、武器ではないけど、人体にぶつけたら武器になりそうな物を握りしている者たちもいた。

 どうやら、彼らはこれから雇用主である会社に抗議でもするらしい。

「行くぜえええぇ!」

 彼がより大きく叫んだ。

 それから、上着を着た。

 すると、一団も一斉に上着を着る。むき出しにしたたくましい身体を防寒着で覆う。

 おれは無関係者なので、その場から、するりと離れた。

 そして、少し歩いた先に、港の一角で、その一団に遭遇した。さっきとは、まったく別の集団である。

 みな、たくましい身体つきの、荒々しい雰囲気を放っている。上半身は薄着で、鎧のように固そうな肉体を露出させていた。さっきの一団と違い、完全に闇社会の住人的な雰囲気がある。こちらの方も武器ではないけど、人体へぶつけたら武器として充分そうなものを手する者がいた。、

 その一団の前に立つ、統率者らしき男が言う。いちばん強そうな男でもあった。

「お前たち聞けぇえ! 奴らはぁこの会社に立てつくつもりだぁ!」

 彼もまた上半身は薄着である。

「ぜってえに一歩も引くなぁ! なめられたら終わりだぁ! どんな威圧に屈するな、会社として奴らに、徹底的にわからせてんだあああ!」

 大きな声でげきを飛ばす。

 とたん、一団は、はいいい、と、微妙にそろった返事をした。

「行くぞぉぉ!」

 男は言い放ち、一団はまた、はいいい、と微妙にそろった返事をする。

 そして、彼はあったかそうな上着を着こんで、歩き出す。

 他の者たちもあったかそうな上着を着こみ、彼の後へ続く。

 さきほどの荷役者たちが集結している方へ向かった。

 これから、荷役者たちと、会話者たちとで、熱い戦い展開されるのだろうか。

 いや、戦いは熱いかもしてない。けれど、両陣営とも、寒がりであることは、おれしか知らない―――

 というか、なぜ、脱いでたんだろう。

 そこは、謎ままである。

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