ゆきだまり

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 雪原に刻まれた轍にそって歩く。一面、真っ白い。

 太陽はのぼっているし、眩しく輝いている。けれど、まったく暖かくない。鉱石に反射して、拡散する光みたいな輝き方で、時々、虹色の光も放っていた。空は灰色かかった青である。風は吹いていない。

 依頼を受け、竜を追い払い終えて、滞在している町まで戻る。雪が音を吸収するのか、雪原は、静かだった。

 どれだけ寒い場所でも竜は現れる。ここより遥かに寒い場所だって現れるし、溶岩口のそばにだって現れる。竜はこの惑星のどこにだって、生息可能だった。

 息を吐き、雪原を行く。外気は冷えに冷えていた。この寒さに対抗するには、手袋は必須である。もしも、していなければ瞬く間に、身体も手も凍ってしまう。竜を払い際、剣が思い通り握れないことは、命取りになる。

 とはいえ、手袋越しに剣を握るのは、素手で握るときとは力加減がかなりちがってくる。

 それと、いま着こんでいる厚手の外套。この寒さに対して、充分な保温性を担保するため、生地は厚く、けっか、薄手の外套に比べ、身体の可動域をかなり限定させるた。

 他にも寒さ対策はある、靴にしたってそうだった。

 にしても、広い雪原である。

 轍の道はあるものの、誰も通らない。まるで、この光景の中で生息する生命体は自分だけになった気分だった。

 で、歩きながら、肩を回し、厚手の外套の可動域を確認する。少し、肩がつっぱる感じがある、

 やはり、厚手の外套だと動きに制限がかかる。今日も竜を払う際にもそれうだった。竜と遣り合うのは、どうしても命懸けになる。ゆえに、常に限りなく、万全に機能する状態であるべきだった。

 けれど、これを着ていないと、寒さで号泣しそうになってしまう。その涙は、きっと、すぐ凍るだろうけど。

 しかたない。と身体が装備に慣れるようにするか。

 と、思い、立ち止って轍の道をずれる。

 足跡を生産し、雪原を進んだ。ほどよいところで止まり、足音の雪を掴んだ。

 両手で丸める。

 それから、雪原の地平へ目掛けて全力で投げた。

 丸めた雪はさほど遠くへは飛ばなかった。速度もまったくなく、雪玉の半分以上が空中で霧散した。

 やはり、肩の可動域がいまいちだ。それに、雪を固め方もあまかった気がする。

 おれは、ふたたび雪を拾い、手で丸める。今度は、ぎゅ、ぎゅ、っとした。

 この雪玉が高速で投げられるようなったとき、それはすなわち、この厚手の外套の可動域の制限をおれは克服したといえる。

 んー。

 いや、はたして、そうなのか。

 まあ、いい。

 まずは、やってみることが大事だ。挑戦することを、やめてはいけない。そうやって、自己暗示する。その自己暗示もまた、孤独がなせるわざといえる。

 で、雪を固めて、また投げる。今度もうまくいかない。

 雪玉の固め方に不備があったかのか。

 さらに雪を拾い、かなり強めに握って丸めて固める。

 投げる。いまのは、なかなかよかった。

 やはり、雪の固め方が重要なのか。投げる技術も必要だけど、玉を固める技術力の獲得が必要な気がする。

 なるほど。そうきたか。なるほど。

 と、漠然と思いつつ、両手で足元の雪を拾う。むにっ、とした。雪を、ひつかみ。

 いや、まちたまえ。むにっ、ってなんだ。

 見ると、両手で小さな白いうさぎを掴んでいた。

 うさぎが足元にいたらしい。

 おれは「ごめんなさい」と、謝罪した。

 いや、けれど、だまってそこにいる君にも、責任の。

 ああ、にげた。

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