かんがえめりこみすぎ
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
諸事情あって、いま、おれはこの港町にずっと滞在している。
それがいかなる諸事情かの説明はさておき、この諸事情を、どうにか無力化できるような、画期的、かつ、限りなく少量の労力で実現可能な方法はないか、と考える日々を過ごしている。
そして、今日も、あてどなく町の中を歩きながら、考えていた。諸事情の無力化の方法について、うなりながら。
外はひどく寒かった。もはや、冬が来ている。町ゆく人々のほとんどが防寒着姿だった。川は凍り、太陽はまぶしいに、まったく暖かくない、空気の冷たさに太陽が負けている。それでも外には、元気な子どもたちの姿はあった。
世界はまるで何も問題なように見える。
いっぽうで、おれは問題を抱えていた。
さて、どうしたものか。
独り対策会議をしつつ、その通りまで来た。そして、とある生垣を通りかったときである。ふと、それを見つけた。
枯れかかった生垣の中に何かがめり込んでいる。一冊の本である。
なぜ、本が生垣にめり込んでいる。
と、思う同時に、手を入れ本を抜きとっていた。なんといか、本屋で気になる本をみつけたとき、つい、手に取ってしまう習慣がここで発動したとみえる。本の表紙には何も書かれていなかった。
なんだろう、この、めりこみ本は。
で、本を開いてみた。幸い、おれが読める言語で書かれていた。
えー、なになに。
本にはとある日付、とある時間、とある資産家の屋敷の場所、その家の見取り図、その屋敷に勤める者たちの人数、そして、獲得すべきと設定された、とある壺の絵がのっていた。さらに補足情報もこまかく記載されている。
まるで犯罪の指示書である。おおげさな。
ったく、めりこみ本のくせに、なまいきな。めりこんでいたくせに。
などと、本を愚弄しつつ、いっぽうで、ふと考えていた。まてよ、これはもしかして、本当に、なにか、よからぬ企ての指令書だったりしないか。いや、厳密には、指令書ではなく、指令本になるけど。
もしかして、実行者に指令を出すため、この生垣のめりこませて、隠してあったのではないか。
いや。
いやいや、考え過ぎか。
考え過ぎさ。
うん。
そう思いつつも、おれは懐から自前の筆をとりだす。それから本の最後に『なお、この資料は確認後、すみやかに、食べて処分すること』と追記した。さらに『表紙も含む』とも書き加えた。
まあ、どうせ、ただのあれだろうけど。
まあ、まあまあ、ね。
と、なあなあで自身を安堵させつつ、本を閉じ、そっと生垣の中へめりこませた。もともとの位置と見まごうことなき配置を心掛ける。
そして、その場から急速離脱である。
で、その後、おれはしばらく広場に待機した。様子をうかがっていると、やがて、黒い外套を羽織った人物がやってきて、その生垣のそばに立った。その人物は周囲を警戒しつつ、生垣から本を取り出すと、歩いていってしまった。
おれはその人物を追いかけてみた。
本を回収した人物は、無人の路地へ入ると、そこで回収した本を開いた。神妙な面持ちで、本を読み進め、最後までめくった。
「って、食えるかぁ!」
そして、叫んで本を地面に叩きつけた。
「もう、やめさせてもらうわぁ!」
とも叫び、あとは、ひどくご立腹した様子で、本をその場置き去りにし、どこかへ行ってしまった。
おれは完全に相手がいなくなったのを確認てから、残された本を回収した。後で、宿屋の暖炉へ放り込もう。
はたして、おれの考え過ぎた行動が、犯罪の事前阻止にめり込んだのかどうか。
それは定かではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます