かまし

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 座った場所から、大きな港が見える。あの港には毎日のように、大型船が入港し、そして、出航している。

 おれ自身、詳しくはわかってないけど、どうやら、あの港は海域的に、大型船が荷物を積んで大陸間を移動する際、補給のため寄港するのに、最適な場所に位置するらしい。なので、もともとは、そういった理由から、補給用の拠点として発展し、やがて、ここで船の荷物の積み替えをするようにもなり、港は増築され、大型の倉庫も建つようになった。

 港の発展、拡大とともに、人口も増え膨らみ、町は発展した。それが、ここ三十年のことらしい。ちなみに、三十年の間、町は竜に滅ぼされることがなかったという。

 この土地は夏は短く、春はほぼ無いらしい。秋は完全に冬に属して、年間を通して、朝は吐く息がたいてい白い。冬の間、一度、外で水が凍ると、冬が終わるまで、まずとけない。帽子を被ってないと頭は寒く、手袋がないと指も氷るらしい。

 ただ、まだ冬は来ていない。けれど、寒いは寒い。

 とにかく、大きな港である。船で運ばれてきた荷物を保管する大きな倉庫もある。となると、船が到着する度に、荷物の積み降ろしが必要となる。すると、とうぜん、大勢の荷役も必要となる。

 荷物を積み降ろしを担う荷役の人々は、身体が大きかったり、力が強い人が多い。そういった仕事を求めて、大陸外からやってきた人たちもいた。言葉が通じなくても、できる仕事でもあった。親類を頼りにやってきて、仕事に着いた者も多い。

 むろん、荷役の仕事する者には、その雇い主はお金を払うことになる。けれど、雇い主の中には、どうにか、その支払いを安くしたがる者がいる。荷役の仕事をしている者たちからすると、とんでもないことである。

 そこで荷役の人たちは雇い主たちに好き勝手されないよう対抗手段として、組合をつくった。ひとつの組織の誕生である。

 で、だいたんに端折って言えば、その時の集まりが母体となり、いまではこの町を裏で支配する、物騒な組織になっているという。この町で起こる厄介ごとを裏から物理的、および、非物理的な方法で片付けたり、一定の恐怖により、町の秩序を保つ役割を担っている。

 で、どうやら、おれはその組織から狙らわれているらしい。それが最近わかったことである。その組織から賞金をかけられていた。おれをやっつけたら、お金あげるよ、と。

 組織から狙われるきっかけは、ささいなことでしかなかった。ちょっとした、まちがいだった。誤解である。

 まあ、この町の組織から狙われているんだし、この町を出てしまえば、いいのではないか、とも考えたものの、いや、もしも、この町以外で狙われるようだったら、それはそれで嫌だった。

 なので、願わくば、この件を処理し、狙われないようになったうえで、この町を出たい。

 ただ、問題解決の突破口は見えていない、無だった。出口の見えない、炎上する迷路を、さ迷っている気分である。

 いや、炎上する迷路といったけど、いまは、野外の広場にある縁石に腰かけているので、むしろ肉体的には寒い。

 太陽は空でまぶしく輝いていた。けれど、まぶしいだけで、まったく暖かくはなかった。

 とにかく、おれがいま賞金稼ぎたちに狙われている。

 その賞金稼ぎのひとりが、サマーという青年だった。二十歳くらいの銀髪の男である。

 そのサマーはいま、おれの視界の範疇にいる。広場で町の子どもたちと一緒に、きゃっきゃと、はしゃぎ球蹴り遊びをして遊んでいた。じつに無邪気に見える。その様子からは、とても奴が賞金稼ぎには見えない。

 彼いわく、おれにかかった賞金額が増えたとき、おれを狩るらしい。なので、いまは、手を出さないとのことだった。

 壮絶に身勝手な話である。こっちは、どういう気持ちでいればいいだろうか、心の置き場がわからない。

 いっぽうで、子どもたちと球蹴り遊びをするサマーは、どこでもいる子ども好きな青年にしか見えない。彼からは殺気も感じないし、武器を装備しているところを目にしたことがなかった。

 もしかして、愉快犯なのか。

 いや、いまは愉快に子どもたちと球蹴りをしているけど。

 などと、思っているときだった。球がサマーの足元に転がり込んだ。彼がそれを右足で蹴る。足の振りがみえなかった。鋭く球を蹴り、気づけば、その球が瞬間移動のように、おれの顔へ迫っていた。だめだ、これは避けられない、感じとって、それでもかすかに顔を動かした直後、球はおれの右の頬をかすめる。球は背後に生えていた木にぶつかり、木の幹を砕き、球は破裂した。

 うそだろ、かすった右の頬が、少し焦げている気がする。おそらく、球が直撃していたら、顔がそこそこ、えぐれていた。

 滅殺な蹴り。なのか。

 と、おれがひいていると、サマーが笑顔で、とたとた、とこちらへ駆けて近づいて来た。

「ああ、ごめんなさい、ヨルさん。本能的に、そっちに蹴ってしまって。やれやれ、まだその時は来てない」

 サマーは笑顔でかるく謝って来た。

 そこでおれは彼へ告げた。

「いまのは、おれじゃなきゃ、避けられなかった」

 少し避けたから、真実である。

 か、かまして、やったさ。

 

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