ひいては
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
諸事情あって、別の竜払いと組んで竜を払う依頼を受けた。組むのは初見の相手である。
彼女は二十五歳前後か、きっと、おれと同じ歳くらいである。身長はこちらよりも、やや高い。それは彼女の履いている靴の底が分厚いからだった。
栗色の長い髪を網ように巻き右肩に垂らしている。その髪の先端には煌めく赤い石の飾りがついていた。彼女が装備している竜払い用の武器は、水道管のように加工された代物のようだった。その武器もまた、はじめて見る代物だった。
集合場所ではじめて顔を合わせた際、おれはおれは「はじめまして、ヨルです」と、名乗った。
彼女は肩をすくめて応じた。「ま、よろしゅうな」と。
ちなみに諸事情とは、依頼者によると、先に彼女へ竜払いの依頼したけど、会ったらなんだか気難しい相手で、なかなかの不安になり、けれども、いまさら彼女への依頼を解除して別の竜払いに切り替えた場合、濃厚に恨まれそうで不安になり、おれを追加したらしい。
まあ、これは、おれしか知らない話である。彼女は何も知らない。
まあ、そう。
しかたない。こういうこともある。
で、あいさつ後、ふたりで依頼のあった現場まで、林の中にある道を歩い向かった。今日も寒く、空気は冷え、葉も地面も凍っている。体外に漏れる息も濃く白んでいた。
で、ふと、彼女から問われた。
「なあ、いままで変わった竜に遭遇したこととかある?」
前を向いたまま放り投げるように問う。目は合わせる気はないらしい。
そこで、おれは己の記憶を探り答えた。
「石を投げたら尻尾で打ち返してくる竜がいた」
「そんな竜いない」
即時、否定である。
迷いなく、斧で薪を真っ二つにするが如く、すぱん、とした否定である。
すると、彼女は「ほか、ないの? 変わった竜に遭遇したこと」と、追求を実施してきた。
「そうだな。そういえば、金色の竜がいた」
「そんな竜はいない」
さっきと微塵も変わらぬ口調および、音域で否定してきた。
「他はないの、変わった竜にあったこと」
そして、ぐいぐい、と訊ねてくる。
「小さい頃、人に育てられた竜がいた」
「そんな竜はいない」
今回も完全に前を向いたまま否定である。
「他にいないの、変だった竜」
しかも、彼女はなお、竜の話しを求めて来る。飽きなく好奇心があるといえなくもない。
けれど、他の竜の話しをしても、ふたたび、否定される気しかしない。
よし、もう、虚偽をしよう。
たとえば、そう。
「前髪がふさふさの竜がいた、まつ毛も長かった」
「あ、うんうん、いるよね! そんな竜っ!」
とたん、かなりの好反応を示す。鼻息もあらく、興奮していた。
というか、いるのか、そんな竜。おれは見たことがない。
とはいえ、否定はしなかった。否定されるつらさを知るにんげん、それがおれである。
その後、現場へ到着し、追い払うべき竜を目視した。
おっと。
これは、まさか。なるほど、そうきたか。
寒いから、ふさっとなるのかな、竜も。
ああ、否定しないでよかった。
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