ておどり
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
この町は今日も寒い、太陽の下でも土地面は総じて凍っていた。風も氷のように冷たい。
そして、おれはいま尾行されていた。大勢の人々が行き交う町の通りを歩いているおれを人込みに紛れて追跡して来る。
相手はわかっていた、ミミサという女性である。外見的には少女といっていい、二十歳以下だろうけど、年齢は不明だった、確認していない。
銀色の髪は、ねぐせか否か、猫の耳のようなかたちをしている。彼女はおれの首を狙っている、賞金稼ぎだった。視認すると、管ぞよは行き交う人波に、やや、流されつつ、がんばってこちらを追跡している。何度も人と肩がぶつかっていた。
どうやら、やっこさん、尾行がうまくない。
彼女はしゃべらない人だった。相手に何かを伝えるとき、紙に書いて文章で伝えるやり方だった。そのため、誰かとぶつかる度に、彼女は何か急いで書いて書面にして相手に渡していた。はたしてその内容が、謝罪なのか、あるいは、相手への注意もしくは警告なのかはわからない。彼女は常に一定の無表情なので、遠目からの観察では、はかり知るのも難しい。
だいいち、道で人にぶつかる度に、紙を取り出し書いて相手に渡しているので、おれがふつうの速度で移動しているだけで、ぐんぐん、距離は離れてゆく。
彼女がなぜ、徹底してしゃべらず、紙に文章を書いて相手に伝える方法をとっているのか、その理由はしらない。
なら、いっそ、聞いてみよう。
そう発想し、おれは彼女が追いつくまでその場に待機することにした。けれど、向こうは、なかなか追いつかない。しかたなく、町を眺めていると、とある店が目に入る。そこは操り人形の店らしい。硝子の向こうに様々な種類の人形が陳列されていた。並んだ人形の中に、上から紐で吊るして操る人形ではなく、ぬいぐるみのつくりで、中へ片手を入れ操る手踊り人形があるのをみつけた。犬を模したものやら、猫を模したものやら、いろいろある。
手踊り人形か。
まて、そういえば、いぜん、こんなことを聞いたことがある。
たとえば幼少期、しゃべることが苦手な子どもに対し、ああした手踊り人形を手にはて、動きをつけながら話しかけたり、もしくは、その子どもの手つけさせると、おもしろがってか、しゃべらない子どもが、ふしぎと、きゃっきゃとしゃべるようになることがあるらしい、という伝説を。
そう、まあ、伝説である。
おれはミミサの方へ視線を向けた。相手は幼少期の人間ではない。ただ、いまも誰かにぶつかりながら、その度に、紙に書いて渡しているので、ここまで来るには時間がかかりそうである。
そして、寒い。そこで最後は寒さに屈するかたちで、おれはとりあえず店へ入った。店で白猫を模した手踊り人形を購入し、外へ出る。
すると、丁度、彼女が店の外にいた。新たに、ぶつかった相手に、書面を渡しつつ、こちらを見る。
彼女は無言のまま鞘から短剣を抜いて、片手で構えた。完全にやる気である。
対して、おれは購入したばかりの猫のぬいぐるみの手踊り人形を取り出す。白猫手踊りである。
で、差し出してみた。
彼女は、まず眸だけ動かし、手踊りを見た。それから、短剣を持っていないで方の手で取る。
迷わず右手にはめる。手踊りの白猫の両手をかるく動かし、おじぎさせてみる。
そのまま、停止して、五秒が流れた。
とたん、ミミサは、わかりやすく、はっ、となった。
手踊りを動かす。
彼女は手踊りの後ろへ口元を隠しつつ、いった。
「ふふはは、こいつは、人質としてわたしがいただく」
まるで手踊りの猫がしゃべったように動かく。
やったぞ、成功だ。
いや、成功なのか、これは。
いずれにしろ、その手踊りは、ねこなので、人質ではなく、ねこ質である。
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