みとどけ
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
依頼を受け、とある町の丘にある広場に現れた竜を追い払った。犬くらいの大きさの竜である。
この大陸に来て以来、竜払いの依頼が微妙に途切れない。三、四日に一度は依頼される。
おれはいまは、この大陸を離れるため、ある港町の宿に滞在していた。そこで船を待っていたけど、なぜか乗ろうした船が出航する前に、いつも竜払いの依頼が来る。依頼者はみな、困っていそうだし、来た依頼は引き受けていた。
それで、ずるずると、港町から出れない。
考えて、息をつく。
で、剣を背中の鞘へおさめつつ、竜が遠くの空へ飛んで行くのを見届けると、丘をくだることにした。
急斜面の階段を降りる。
「おぬし、ヨルだな」
すると、降りていた階段の下段に、男が腕を組んで待ちかまえていた。
五十歳くらいで、背が山のように高い。ほとんど剃髪気味のあたまに、筋骨はたくましく、この寒い中、半そでである。赤土色の肌ははち切れそうで、張りがあり、まるで金属を思わせる質感で、じつに硬そうである。
野獣。
いや、一見、その表現が適切に思えるが、知性も備えていそうな目をしている。
そして、男の後ろの段には、十数人の似たような恰好の男たちがいた。みな、鋭い眼差しでおれを見上げていた。
「我が名はマリシオン。おぬしの首をここで狩り、その身に懸かった賞金を、すべていただく」そう宣言し、さらにいった。「我が背後に構えるは、我が弟子たち。その中でも選りすぐりの高弟である十二人。しかし、心配は不要。おぬしの相手は、我のみだ。弟子たちは、我が戦いをその肉眼でとらえ、その心に吸収するため、着いてきたにすぎぬ」
あふれかえるような余裕を放ちつつ、男は語る。
弟子たちの方も、むんず、と口を閉じて、真剣な表情で師と、そして、おれを見ていた。
おれに懸かっているという賞金。それを狙う者がまた現れたか。
しかも、こんな急な階段で攻めて来た。
「我は拳を極めし者。この拳のみで、おぬしと遣り合う」男、あー、マリシオンだっけか名前、とにかく、そのマリシオンは自信に漲る様子で、かためた右拳を天へと突き上げた。「おぬしの方は、遠慮なくその剣を使うがいい。卑怯とは、いわんよ」
そう言い、白い歯を見せて笑う。
つまり、いま、階段の下に、おれを殴って、お金を稼ごうとする人がいる。
とんでもねえな。
「我とおぬしの実力差は極めて明白。そこで、ひとつ配慮しよう。一方的な戦いでは、弟子たちへの刺激不足だ。こうして、おぬしは、その有利な上段に位置し、我は不利な、この下段の位置から戦いを始めよう」
「いや、そういうことを配慮するなら、襲ってこないって配慮に、全生命力を注いでくれた方が」
と、おれが答えている最中に、マリシオンは「ゆくぞ!」と、吠えた。
話を聞いてくれない。
奴は両手を拳にし、腰を捻り、左足を後ろへ下げ、構える。
けれど、左足が段を踏み外し、後ろへ倒れた。
「うぁ、師匠ぉお!」
とたん、弟子たちが慌てて、階段を落下するマリシオンの背中を支えんと、ぞぞぞぞ、っと動く。
弟子たちもみな、かなり鍛えているらしい、動きが機敏だった。さらに鋭い。
そこにいた十二人、全員が完璧に反応した。
十二人が全員で素早く動き、一斉にマリシオンの背中へ手を伸ばす。
ただ、全員の動きが、鋭すぎた。
弟子の十二人が一斉に伸ばした両手が、師匠の背中へ一挙にあたった。その衝撃でマリシオンは新たに空へ舞う。
奴の背中は海老のようにしなって、空中で弧を描く。
で、空で「げぶっ」と、濁音の悲鳴をあげるのが聞こえる。
それが、けっか的に、十二人の弟子による、合体攻撃の完成であった。
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