とていびしい
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
この土地の竜払いは徒弟性で竜払いになるのが大半らしい。師匠へ弟子入りし、竜払いになる。
名の知れた十数人の師匠たちが、ふんわりの領域をすみわけ、竜払いの依頼を、やんわりと管理しているのだという。
そう、あくまでも、やんわりらしい。きっかりや、きっちりでもない。やんわりと、ふんわりと、なんとなくだった。
いや、ここで竜払いとしてやっていくためには、必ず誰かの弟子にならなければならないということもないし。おれのような流れ者の竜払いだって、竜払い依頼を受けることは可能だった。
ただその場合、この二つが発生する。
師が定まっていないので、実績がないうちは、この土地での竜払いとしての信頼度が低く、依頼がされにくい。
そして、依頼料金を相場より安価にされる場合がある。
けれど、おれは運がいいのか、この町に留まっている間も依頼はそれなりに持ち込まれた。依頼は相場よりは、やや、低いものの、そう悪くない。
この町に長くいる気はない。けど、いまはいろいろあって、港から船が出ない状況で、町から出れない状況だった。
いや、正確には船は港から出ている、貿易船が頻繁に出てる。それらの船にのせてもらう方法はあった。けれど、その船はみな、おれが行きたいような場所へ行かない船ばかりである。たとえば、とんでもなく遠い大陸へ連れてかれてしまう。
それに、ここ町にいる間、竜払いの依頼も定期的に着て、それを引き受ける度に、町からの出る機会を失っていた。
むろん、依頼が、ふんわり途切れない状況に、作為を感じない方が不自然だった。なににかが、おれをここに留めようとする意志がみえるような。
みえないような。
心当たりもある。
で、なんだかんだ、この港町に滞在している時間も長くなった。
そこで、このあたりをふんわりと担当する、竜払いたちの師匠へあいさつをしに行くことにした。あいさつをする必然はないけど、持ち前の社会性が機能した。
冷たい風の中を歩き、その自宅を訪ねる。門をくぐり、扉を叩くと、弟子らしき十代の青年が出迎えた。師匠へのあいさつことを伝えると、彼は師匠は丁度、在宅中です、答え、家の中へ招き、師匠の部屋まで案内してくれた。
部屋で待ち構えていた師匠は、六十代くらいの女性だった。小柄で毛糸の帽子を被っている。火鉢をそばにおき、椅子に座でっていた。
背後の壁には竜払いように槍が数本、かけてある。
「はじめまして、ヨルと申します」
おれは彼女前に立ち、名乗った。
「おっ、なにさ、じぶん。ヨルっていうの? はー、ほー、歳はいくつ? まって、ああー、二十二、三だね、ああー、そのくらいだよ、わかるわかる、それに見ただけでわかるよ、あんたがこれまでどんなことを経て来たのかねえ、ああ、わたしだってここまでやってきたんだから、わかるよ、そりゃあねえ、ってか、あんたも何かしゃべりなさいよ、せっかく、あいさつに来たんでしょ? あんたさ、運がいいんだよ、わたしだって、今日はたまたま、ここにいたんだから。ね、おもしろいことのひとつも言いないさいよ、いい? 十秒に一回だ。十秒に一回はおもしろいことを言わなきゃいかん、じゃないと、ここじゃ、やってけないよ、やってけないねえ。このあたりのお客さんは、なかなか、かたいよ。なかなか、認めてくれないんだから、こー、腕組みして構えてる感じだねぇ」
言って、彼女は顔を左右に振る。
「まあ、どんなに、おもしろいこといって、いっぱい客を温めてもー、客は外に出てすぐに冷えちゃうけど」
そう告げて、彼女は最後に深く頭を下げた。
んー。
おれは師匠をまちがえたのだろうか。
いずれにしろ、広範囲の意味で、きびしい師匠である。
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