きっとあてさせないためだけども
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
竜は少しでも傷を負うと、飛んで空へ還ってゆく。その場所から遠く離れてゆく。
ただし、竜を攻撃する場合、竜の骨でつくられた武器で攻撃しなければ、たいへんなことになる。
竜はこの世界のどこにでもいて、どこにでも現れる。どこにでもいける自由度、かつ、どこにでもいる率は人間を遥かに上回る生命だった。
で、人は竜が恐い。竜が近くにいると、人は、おちおち、恋だってできない。
と、むかし、誰がいっていた。
もしかして、あのとき、あの人は、恋をしていたのか。その真相は、もはや、闇の中である。
だめだ、思考が散漫になる。寒すぎるからだろうか。まあ、それはそれとして、とにかく、竜は少しでも傷を負えば、その場からいなくなる。
そして、おれは竜を追い払う、竜払いをしている。依頼を受け、おもに剣を使って竜を攻撃し、追い払う。ちなみに、背中に背負っているこの剣には刃を入れていないので、竜を剣で斬るではなく、剣で叩いて攻撃しているかたちになる。
にしても、剣か。
おれはずっと剣で竜を払って来た。あやうい場面あったけど、なんおか、やり抜いて生きてた。
けれど、ふと、こう考えるときもある。これまで剣でやって来たからといって、このまま剣だけに固執する必然性はないのではないか、と。
竜を追い払うために傷を与える手段はべつに剣ではなくてもいい。
などと、思っているとき、路上でその屋台と遭遇した。的当て遊戯だった。弓で矢を射って、的にあたれば景品がもらえる、そういう流れの遊戯とみえる。
弓矢か。そういえば、これまで使ったことがほとんどない。
まてよ、もしも、弓矢が使えるようになれば、竜払いの場でも有益な能力になるのではないか。
店先に提示されている遊戯料金も安価だし、ここは、ひとつ試してみよう。新しい戦力になるかもしれないし。
そう考え店番をしているらしき男性を見る。四十代ほどで、坊主頭に髭を生やした男だった。けっこうな大柄である。
おれが店に接近すると、彼は目を合わさないままま「にいさん、やるのかい」と、声をかけていた」
「はい、挑戦したいのですが」
回答し、彼へ遊戯料金を支払う。彼は目を合わさないまま「矢は三本だよ、当たったらさ、木彫りの鳥、あげるから」と、いって弓と矢を渡して来た。
おれはその場から弓に矢を添え、見様見真似で構えた。
店はかなり奥行があって、それは遠くにみえた。
その場から狙う。
ただ、視線の先に、的はない。
木彫りの鳥が吊るしてあった。
まさか、的はなく、矢で直に景品らしき木彫りの鳥を狙うのか。
その、つまり、的があって、的に矢が刺さったら、別の場所に在庫として保管している木彫りの鳥を景品として渡すとじゃなく。
そして、かりにもし、矢が木彫りの鳥にあったとして、きっと破損だろうし、その破損した商品を当たった景品として貰うことになるのか。
仕組みが微妙である。
「あの木彫り鳥はね、わたしの祖母が、彫ったんですよ………」店主が渋い声でいった。「いちわ、いちわ………魂込めて………手を彫刻刀で………へへ手を………傷だらけにしながら………」
いって、ぐすん、と鼻を鳴らす。
「とくに、いまお客さんが狙ってる作品は………そう………あの作品は………ふふ………あれが完成した朝………祖母は………祖母はね………いまわたしは………木彫りの鳥業界において頂点に立った、と確信した一作で………」
うん、なら、それを景品にするなよ、君。
これ、的はずれな商売の仕組みだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます