ひかりいどう

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 はからずも、同じ土地に長く留まったせいか、竜払いがここにいるという情報が広がり、おれへ依頼する人が続くようになっていた。

 今日は町から少し離れた場所にある屋敷の主から竜払いの依頼を受けた。庭園に現れた、中型犬ほどの大きさの竜を追い払って欲しいという。

 凍てつく大地を歩き、屋敷へ向かう。到着し、門をくぐって、進み、真昼の庭園に立った。

 太陽は高くのぼり、まぶしいほどに空に輝いているものの、地上はやはりひどく寒く、庭園の植物の大半は凍りついている。

 竜はすぐにみつけることが出来た。ほとんどが枯れている庭園の中では、隠れ場所も少ない。

 おれは背中から剣を抜く。

 竜を払った。

 竜が空の彼方へ飛んでゆく確認し、屋敷へ依頼完了の報告へ向かった。すると、使用人に応接間へと通される。

「お館さまは、どうしても、竜払い様に直接お礼をいいたいと申しており、ぜひ夕食をご一緒もしたいとも。じつは、お館は、竜払い様から、竜払いについて、いろいろお話しをうかがってみたいとおっしゃるっておりましす。いえ、ですが、ごお館さまは、いまお忙しくもありまして、そこで申し訳ないのですが、こちらの部屋でご夕食まで、ごくつろぎ、つつ、お待ちいただけないでしょうか」

 そういわれ、おれはうなずき背中から鞘に入った剣を外し、椅子に座って待つことにした。

 夕食まで時間があり、待つ必要があるけど、こういう会食の機会では、思わぬ情報を入手するものである。

 通された応接間には暖炉があり、すでに充分な火も入っていた。部屋のどこにいてもあたたかく、快適である。外とは異次元の空間だった。

 ふと見ると、応接間のある窓からは、太陽が光が差し込み、光の柱のようになって床の一か所を特別に照らしていた。

 そして、その差し込む光りの先端に猫がいる。乳白色の毛並みで、異様なまでにふわふわしていた。

 猫は窓から差し込む光りの先端に位置取り、満足げに丸まり眠っていた。

 この屋敷の飼い猫なのだろう。そういえば、聞いたことがある、猫は、その家でいちばん好い場所にいることが多いと。

 実際、その猫は、暖炉があるこの暖かいどこでも部屋でも、さらに最も太陽の日差しが当たる場所にいた。

 なるほど、と思いつつ、おれは屋敷の主人が来るのを手持ちの本を読みながら待った。

 そうしているうちに、時間が過ぎ、太陽が動く。むろん、連動して窓から差し込む光りの位置も移動した。

 すると、猫はむくりと立ち上がり、移動した光りの先へ向かい、そして、そこに座り、丸まった。

 それからまた屋敷の主を待つ時間が流れた。また太陽の位置が変わり、部屋に入り込む光りの位置が変わる。猫は、ふたたび起き上がり、光りの先端へ向かい、座り、丸まり眠る。

 そのまま、おれは夕食の時間まで手持ちの本を読んで過ごす。その間に、空にある太陽の位置は変わり、床の光りの位置も移動し続ける。その度に、猫も移動した。猫は太陽の光に固執するように、移動し、そこで眠る。

 いや、それだけ頻繁に動いていたら、けっかてきに、眠れないのでは。

 それでも、猫は部屋に差し込み太陽の光の位置に合わせて移動し続ける。やがて、部屋の中に差し込む太陽の光が、そのまま窓の外へ注がれる角度になった

 すると、猫は立ち上がり、光を追って、器用に前足で窓をあけ、外へ出た。

 で、すぐ部屋の中へ戻って来た。

 あ、ちがう、ちがう、まちがえた、と、ばかりに、身体をぶるぶるせて。

 かなり、寒かったらしい。


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