こいいぬこない
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
港には、たくさんの輸出品を詰んだ船が集まっていた。
この大陸は、食料、材木、加工品、など外の大陸から入って来るものより、外の大陸へ出すものの方がはるかに多い。ゆえに、港町には積み下ろしの仕事も多く、この極寒の港町も大きく栄えていた。
ここでは、みな、防寒着を着こんでいた。地面も冷えていて、底が未加工な靴を履いていては、すぐに足の裏がだめになる。
そして、きいたところによると、大陸の西へ向かうほど、まだまだ人の手付かずの土地があり、そこはさらに、冷えて凍っているらしく、人が生きるためには、多くの知恵と工夫を必要とし、濃厚な生命力も要求されるという。それでも西を目指す者は多い、自分の土地を得るために。
いっぽうで、竜はというと、どこにでも現れる、生きれる。たとえ、人には過酷な環境でも、竜には過酷ではなかったりする。ゆえに、竜はこの惑星のどこにでも好きに現れる。
いくら人が生存困難な土地で懸命に生きていても、竜には無関係だった。脈絡なくそこに現れ、大地に降り立つ。竜はこちらから手をださなければ、なにもしてこないものの、人は竜が近くにいると、恐怖でなにもできなくなる。仕事もできないし、学校にだっていけない。人以外に生命体もそうで、たとえば、家畜の育成その他にも影響が出る。竜がそばに現れただけで、人の暮らしは崩れてしまう。
だから、竜をその場所から、追い払う、竜払いがいる。
で、おれは竜を追い払うである。
まあ、それはそれとして、いま、とある問題に直面していた。
「みつけたぜ、賞金首くん」
港町の歩いていると、そいつが現れた。人である、露骨なまでに、武闘派な外見の男だった。齢にして、三十語歳前後だろうか。長らく手入れ不在と思しきに、蓬髪の頭に、同じく手入れされていない髭を果たした、大柄の男だった。
おれの首にはいま、懸賞金がかかっているという。理由は知らない。
というか、ほんとう、なぜだろう。最近、とてつもなく困っている次第である。
だから、こちらは困った顔で現れた賞金稼ぎを見るばかりだった。
「さあ、やろうか」
と、奴は言う。
場所は町でも人通りの少ない場所だった。
男の後ろには、大きな黒毛の犬と、白毛のふわふわしたな二匹がいた。黒毛の方に至っては、犬というより、狼に近い外貌である。
まいったぞ、あんな強そうな犬をけしかけられると、やっかいだ。
「かくごしろ、くく、こいつに狙われたら、おしまいだぜっ!」
男は邪悪な笑みを浮かべていた。
ただ、賞金稼ぎを稼ぐなら、不意打ちをすればいいものの、正面から攻撃を仕掛けようとしているし、きっと、高品質のならず者ではない。
いや、襲撃者の品評などしている場合ではない。おれは警戒の体勢をとる。男の方はまだしも、訓練されているかもしれない猟犬を二匹をけしかられるとなると、対処がふくざつになる。
「よし、いけぃ!」男が、犬へ視線を送り、指示する。
おれは身構えた。
「ん?」
とたん、男はいぶかしげな表情をする。
「あれ………え? あれ、二匹………いる?」
おや、なんだろう。どうやら男がふだん従えている犬の数と合わない雰囲気がある。
男が戸惑っていると、二匹の犬は互いに目をきらめかせながら寄り添い、それから仲睦まじい感じで、しっぽを振りつつ、どこかに歩いて行ってしまった。
おそらく、犬同士の逢瀬が開始である。
こうして、おれにふりかかって来た襲撃という不測の事態は、犬の急な恋という不測の事態により回避された。
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