ないなぞぞ

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 調査のためとある土地へ向かった。

 けれど、まったく発見はなかった。手応えの鱗片すらみえない。

 そして、いま視界に入っているのは、まだあたらしい廃墟になった町だった。このあたりの土地では、たいした生産物もないためか、ここ数年でだんだん人が減り、ついには町から人が消えて、町がなくなった。建物は早くも風化がはじまっている。人がふたたび住むためには、かなり手直しが必要そうだった。

 おれは竜の謎をとくためのかぎを探していた。

 この大陸では現在、竜が減り、そして、人口も減っている。

 ただ、なぜか人が少し増えると、また、竜が増えるらしい。

 そこに因果はあるのか。それを調べていた。

 その調査である。

 そう、調査。

 いや、調査といっても、あくまで自主的、かつ、自己の価値観に基づき、きっと、調査とはこういう感じだろうという、調査しているような、いわば調査感を発しているものでしかなく、おそらく、はたら見れば、昼間から、廃墟をふらふら歩いている人にしか見えない。

 不審者の完成ある。

 けれど、おれは不審者ではない。

 そこで、少し調査している感を出すために、ときに神妙な面持ちをしてみたり、あるいはそこ場にしゃがみ込み、土を指つまんで眺めて、意味ありげにうなずいてみたりしたものの、実体は空っぽである。空虚を生産している。

 もしも、この小芝居が見抜かれては、よけい切ない思いをするかもしれない。そこで、心の小傷を回避するため、おれは近くの町へ向かいことにした。その町は、まだ、人が残っている。

 その頃には、夜になっていた。夕食をとるため、酒場兼食堂へ入る。

 客はほとんどいなかった。空いている席へ座り、注文をとりに来るのを待つ。

 すると、男性の店員が「ああ、お客さん、お客さん、ってば」と、声をかけてきた。

 四十歳くらいの男性の店員である。彼は長めの青い前掛けの袖を、きゅ、っとしぼって纏っていた。手練れの店員風である。

「うち、自立精神の店だからさ」と、いって彼はと受付台らしきものを指さした。「お客さんが、ここまで注文しに来て、酒を受け取る方式よ。あと、金は先払いね」

 そうなのか。席について、注文を取りに来て料理が運ばれる方式じゃなく、客みずから注文しに行き料理も自分で運ぶ方式なのか。

 なるほど。

 おれは彼の教えに従い、注文を頼みに行くることした。

 席を立つ。

「おっとっと、お初のお客さんだね。その席さ、なにか物を置いて、わたしが確保したー、って印をしておかない、と、他の客にとられて、料理を頼んで、受け取り待ちのあいだに座る場所、なくなるよ」

 なに。

 言われて、店内を見渡す。けれど、客もまばらである。そうやすやすと、席が埋まりそうにない。

 けれど、いまの彼の意味深な発言。

 いまから、なにかが起こるというのか。おれの知らない、なにかが。

 そこで、おれは手持ちの小さな手拭いを席の端へ置き、彼の待ち構える台の前に立つ。

 彼へ料理を頼む。

 その場で、料理ができるのを待つ。

 その間、彼は「ふふ」と、不敵に笑んでいた。

 接客業で、そういう不適な笑みは、だめなのでは。そう思いつつ、料理が完成するのを待つ。

「いずれ、わかりますよ」やがて、彼はそう告げた。「お客さん、すべてが」

 腕組みをし、立っている。

 もしや、だめな店なのか。

 そして、料理は彼がつくるわけではないらしい。

 なかなか、長い時間が経った。

 やがて、料理が完成し、おれは受け取る。席へ戻る。

 座る。

 料理を食べる。

 食べ終わる。

 店内を見回す。

 客は、まばらだった。

 なにも起こらない。

 いったいなんだったんだ。気になり、話を聞こうと、彼の元へ向かう。謎をとくための調査である。

 おや、彼がいない。

 そこで、通りかかった別の店員へ訊ねた。

「え? いえ、うちの店にそんな店員はいません………けど………?」

 しまった、謎をとこうとし、よりつよい謎がここに生誕を果たしてしまった。

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