じんるいはつ
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
竜は入り組んだ住宅密集地に現れた。見上げるほど、大きい竜だった。
外見はごつごつし、くすんだだあんず色をしている。目は細くきれながく、口からのぞく形の不揃いの牙はどれも鋭い。威嚇のため、ひろげた翼で影ができ、真昼が、一瞬、夜に思え、叫ぶと、破裂した管楽器みたいな声だった。
竜払いの依頼を受け、おれはいままさに、この竜を払っている。
苦戦していた。相手が巨躯であること、そして、住宅密集地であることも大きい。家が入り組んで建っているので、こちらの動きの自由度もさがる。
それで剣を片手に握り、走り回っている。動きを止めるのは危険だった。
竜は仕留めるのは難しい。それに、竜は人が人を攻撃するような、たとえば、鉄でつくられた剣で攻撃すると、ひどく怒り、大変なことになる。火器でも、ひどく怒る。
けれど、竜は竜の骨つくられた武器で攻撃すれば、そこまでは怒らないし、そして、少しでも怪我を負えば、空へ飛んで逃げて行く性質がある。
ゆえに、竜払いが使う剣は竜の骨でつくられ、その剣身は白い。
住民たちは竜を恐れ、家の中へ入っている。扉をかたくしめてもらっていた。それでも、いくつもの窓から、竜を払う様子をうかがっているのがわかる。恐いけど、興味があるのだろう。
竜がふたたび叫んだ。翼と同化した前足と後ろ足で地面を蹴散らすように路地を馳せ、こちらを追ってくる。おそろしく感知の能力の高い竜だった。家々の後ろへ隠れながら移動するおれの位置を、正確にとらえて来る。
真正面から立ち向かうのは、無謀。
と、竜も思っているはずだ。
そう見切って、ふいに竜に虚を狙って飛び出して、真正面から攻めた。けれど、読みがあまかった。やはり、感度がいいやつで、直後、首を大きく持ち上げ、横殴りに振った。とっさに、剣をたてにして防いだものの、足が浮き、おれの身体は遠くまで吹き吹き飛ばされた。
丸太をぶつけられたような感覚だった。そして、背中から、とある家の窓へぶつかり、破壊して、中へと転がり込んだ。
受け身はとった。痛いが、致命的な怪我はなかったので、すぐに立ち上がる。
そのとき、視線を感じた。
見ると、十五、六歳の青年である、窓から飛び込んで来たおれを見て、あぜんとした表情をしていた。
彼は大事そうに一枚の絵を抱えていた。そこには十五、六歳くらいの笑顔の少女が描かれている。
おれは彼へ「もうしわけない、あとでちゃんとします」と、伝え、部屋を出て、廊下を歩き、玄関から外へ出る。
ふたたび、竜へ向かう。
そして、今度は竜の尾に身体を飛ばされた
今度は、さっきの家と反対側の家へ飛ばされる。背中から窓を突きやぶり、部屋の中へ転がる。
痛い。
けれど、まだまだ。
立ち上がる。すると、視線を感じた。見ると、飛ばされた部屋の中の少女がいた。十五、六歳くらいで、あぜんとしている。
無理もない。
いや、まてよ。
どこかで見たことがある顔だ、そう、それも、ごくごくさいきん。
むしろ、ついさっき。
ああ、さっきの転がり込んだ家の彼が持っていた絵に描かれた少女にそっくりだった。そして、彼女もまた絵を大事そうに抱えていた。
そこに描かれていたのは、あの家にいた彼の笑顔だった。
おれは「ごめんなさい、あとでちゃんとします」と、彼女へ謝罪し、部屋を出て、廊下を歩く。
玄関から外へ出る。
そして思った。
もしかしたら、人類初かもしてない。こういうかたちで、両想いだ、と知った人間は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます