こここどく

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 投石を時として切り札のように使う時がある。

 標的へ威嚇、あるいは攻撃として、石を拾って投げる。これにより、いくたの危うい場面を切り抜けたりもした。

 むろん、万事において万能な手段ではない。使いどころが大事だった。

 いま、まさに、ここだ、という場面で投げることが大事だった。

 そして、いつやってくるかわからない、いま、まさに、ここ、という場面に備え、練習をしなければ。

 むろん、投石は危ないので、だれの迷惑にもならない場所で練習すべきである。

 ゆえに、こうして誰もいない、そこそこの平原へやって来た。晴れているけど、空は灰色がかっており、無風だった。

 くすんだ色の緑が広がり、ところどころに、まるで空から気ままに散り落とされたたように岩がある。道も、人工物その他もない。

 未開の地だった。この大陸は、こういう場所がかなり多い。地面が固く、それでもがんばって掘ってもすぐ岩ばかり出てくる。しかも、畑にするには土の栄養もとぼしい。

 そして、畑にならない土地なので、人も住み着かない。

 誰も近づかないし、近づく理由もない場所である。だから、孤独が確保できる土地でもあった。ここでなら、遠慮なく投石の練習ができる。

 まさに求めていた、孤独だった。

 それに投げやすそうな石も、ごろごろ落ちている。

 準備運動はなしだった。いま、まさに、ここ、という場面で、準備運動などできるはずもない。剣も背負ったままである、外套も羽織ったままである。

 石も事前に拾わない。即座に拾って投げる。

 では、あの遠くにある岩めがけて投げてみよう、決めて、すぐに石を右手で拾う。足、腰、背中の生命力を一堂に会し、最大主力の末端で、手の中から石を解き放つ。

 投げた石は真っすぐに行く、速度もある。軌道も安定していた。

 投げた石は真っ直ぐに飛び、やがて、狙った岩に直撃した。

 けれど、妙だった。岩にあたったはずなのに、音が小さいし、なにより手応えがない。

 ふしぎだった。そこで、おれは草原をかきわけ、石をぶつけた岩まで歩み寄る。

 くだんの岩の前に立つ。なんらへん変哲のない岩だった。

 まてよ、岩の表面に、こぶしほどの大きさのくぼみがある。

 そして、くぼみに、いまおれがこの手から投げた石が、きっちりとおさまっていた。ぱっと見では、まったく、わからないほど、岩と投げた石は同化している。

 むしろ、投げた石は、もともと、この岩の一部だったのではないか、と思えるほどの仕上がりだった。

 なんという、偶然。

 ひどく興奮した。

 すごい。

 すごい、すごいけど。

 いま、この場にいるのはおれだけだった。この興奮を分かち合える者は誰もいない。いま、まさに、ここに、おれしかいない。

 こうして、おれは孤独を好んで選んだ場所で、孤独であることを悔しくて思い、そして、この悔しささえ共有できる他者はいないため、より濃厚な孤独を感じた次第である。

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