こうりょぶそく

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 以前は、何度か竜が出現していた場所までやってきた。

 いや、以前といっても、おれがこの大陸にいた、七年以上前の話だった。

 まて、八年前か。いま、おれが二十四だし、この大陸にいたのは、十五歳くらいだったような。

 まあ、いいか。

 とにかく、以前は、よく竜が出没していた町までやってきた。竜はひどく気ままな生命体であり、どこに現れるか、その法則は不明である。

 この大陸では、現在、なぜか竜が減りつつあった。おれは、その謎を解くかぎを、ふんわりと探していた。あくまでもふんわりとであって、しっかりとではない。

 そう、ふんわりとした歯ごたえの麺麭と、しっかりと麺麭の歯ごたえのちがいは、大きい。

 いまのたとえは、低得点だった。

 とにかく。

 おれは人のそばに現れた竜を追い払う、竜払いである。そちらが基礎となる生き方だし、この大陸で竜が減少している謎を解くには、その基礎の余剰部分を消費にするにとどめるつもりだった。

 で、謎を解くかぎは、まったくみつけられていない。

 無だった。試験用紙いったら白紙の状態である。名前すら書いていないも等しい。

 ふがふがと、そんなことを考えながら、この町までやってきた。むかし、何度か町に現れた竜を追い払ったことがある。

 そこで食堂へ入り、ふんわりと店の人に訊ねた。さいきん、竜は現れますか、と。

 すると、ここ一年は一度も現れていないとのことだった。

 なるほど。

 そうか。

 だからどうだろう。

 根本的に調査方法がわかっていない。調査ってどうやるんだろうか。素人の完全なやみくも調査だった。

 とりあえず、自身を戒めるため「ぽんこつめ」と、つぶやいた。「調査方法の考慮不足め」

 その後、なんら画期的な調査方法をみつけだせないまま町の中を歩く。竜の謎を解くかぎを探す方法が、質の悪い猫探しと似たような行動をしていた。

 やがて、二階建て以上の建物が立ち並ぶ、狭い通りまでやってきた。

 ふいに、頭上で雑な気配がした。

 見上げると、二階の窓のまどわくに、大きな鞄を背負った二十歳くらいの女性が、ぴんと両手を伸ばした状態でぶらさがっている。

 地上には梯子が倒れて落ちていた。

 あぶない、手助けを。と、思った直後、ある考えが到来する。

 彼女のあの状態は、いままさに窓から落っこちるところなのか、それとも、窓の中へ這い上がろうとしている最中なのか。

 どっちなんだ。

 調査、してみよう。

「あの」と、おれは頭上にある、彼女の靴へ話しかける感じで、話かけた。「だいじょうぶですか」

 彼女は「だいじょうぶにみえるのか」と、逆に問いかけてきた。ちょっと強気だった。

「だいようぶでないのであれば、手助けします」

「お金、かしてよ」

 おは、こちらの申し出内容に対して、次元のちがう要求が返されたぞ。

「お金をかしてくれないなら、この手を放す」

 そして、脅迫と化す。

 なぜ、こんなことに。

 けれど、躊躇に考えている時間もなさそうだった。彼女の手は、あきらかに、ぷるぷるしている。きっと、そのときはちかい。

 おれは「知らない人にお金はかすのは、特殊な勇気が必要になります」と伝えた。

「わたしの無事と、あなたのお金、どっちが大事なのよ」と、彼女は二択を迫り、こちらが反応する前に「わたしの無事に決まってるでしょう」そういった。

 脅迫の詰めである。

 なんだろう、この町、しばらく来ないうちに、奇怪な種類の治安の悪化を果たしている。

「わかりました」おれは、さまざまな感情を放棄して、いった。「お金をかします」

「わかればいい」

「いや、あなたのその奇行はわからないままです」そこは主張していた。「永遠にわかる気もしません。あの、お金はどうすれば」

「あたなの足元に置いておきなさい」

「ここですね」

「いい子ね」

「そっちは、だめな子ですが」

「これがわたしの生み出した! 窓わくぶらさがり詐欺だ!」

「詐欺なのか、これ」

 指摘してみるも、彼女は聞いていない。

「そりゃ!」と、声を放って手を放し、地面に着地した。そして、顔をあげ「へへ」と、不敵に笑った。

 本当は運動神経もよく、このくらいの高さなら、着地してもだいじょうぶらしい。

 そうか。

 それを見届け、おれは自分の足元へ置いていたお金を拾い、そのまま歩いて通りの先へ向かった。

 金の回収方法の考慮不足が、まあひどい。

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