ひょうかでけりがつく
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
竜を払い終え、滞在している宿のある町へ戻る。
空の色合いから察するに、日暮れまでにはまだ時間はありそうだった。
さいきん、この大陸では竜が減っているというに、奇しくも、おれには頻繁に竜払いの依頼が来る。
どうしてだろうか。かなり、気になるところである。
ただ、直近の問題はこの空腹だった。朝、宿でかたい麺麭と塩味の汁を口にしてから、なにも食べていない。
なにか胃へ入れるため、宿屋のすぐ近くにある酒場へ向かった。
店内へ入ると、見知った顔の男性の店主が、かるく、あいさつめいた合図を送って 来たので、会釈でかえした。
昼食と夕食の中間の、中予半端な時間帯のためか、店内に客の姿はぽつぽつとあるのみである。
おれは背負った剣を外しつつ、いつも座る場所の席へ腰をおろした。
「みたぜ」
直後、背後の席から声をかけられた。
妙につくりこんだ声である。どうつくりこまれているかというと、芝居でいう、眉目な人がやるようなしゃべり方だった。
振り返ると、白い外瘻を着て、背中に剣を背負った男がいた。椅子の背もたれにめいっぱいよりかかっている。角度的に、中予半端な横顔しかみえなかったけど、どうも、二十四、五歳くらいにみえ、おれとそう歳は変わりそうになかった。
もしかして、彼は、おれに声をかけてきたか。
「あんたが、竜を払うとこ、みたぜ」
ああ、おれにしゃねべりかけてるのか。
「俺も竜払いさ、腕前でいたら最上層の竜払いさ」
臆せず、その自称を放って来る。
それはそうと君、そんなふうに背もたれのある椅子に、剣を背中に背負ったまま椅子に座ると、剣の金具とかが、ごりごり背中へあたって痛いのではないか。
と、おれが思っていると、彼は続けた。
「あんたの竜を払うときの動きをみたぜ、この目でな。あんたの竜払いの腕前はそう、そうさなあ――――――――――――――――」彼は、たっぷりと時間をとっていった。「中の、中だ」
急におれの竜払いの技術の評価を炸裂させてきたぞ。
しかも、かっこうをつけたしゃべり方は依然として継続中であり、虚構のかっこいい人格感がすごい。
いっぽう、こちらからとくに感想もないのでとりあえず黙っていた。
こうして、沈黙の間が生成された。
そこへ、顔なじみの店主が、おれのもとへやってきた。「おう、いらっしゃいな、っと」けいかいにあいさつし「でえ? 今日はなんにするの」やわらかい口調で注文を聞いて来た。
「はい、いつもの麺料理をください」
「はいよ、まかしこまりだ」
気持ちよく応じて、店主は厨房へ向かう。
「くく」
すると、後ろにいた白い外套の彼が笑った。やすい擬音表現みたいな音を、口から放つ。
「あんたの竜払いの動きはみやぜ、中の、中だ」
さっき聞いたぞ、それ。
どうやら、このまま、このやり取りが自然消滅するのを恐れてか、評価のくだりをを再生してきたらしい。
そのとき、おれは店の外と中の温暖差のせいか、喉に違和を感じた。
こふん、と、ひとつ咳をする。
「あんたのその咳のしかたは、下の中だね」
で、今度は、なんだか椅子と台の距離感がいまいちだったので、少し位置をずらす。
「あんたのその椅子の位置の調整、中の上だね」
ふいに、あくびをしたくなったので、あくびをした。
「あんたのあくび、上の下だね」
つぎに、花が、むずがゆくなり、指先でかいた。
「あんたの鼻をかくしぐさ、下の上だね」
店主が麺料理をおれのもとへ持って来た。
「その麺料理、下の下だね」
そして、その後、彼は店主に店の外へ蹴り出された。「最下層の客めが」と、店主かた罵られながら。
白い外套にも、足形がついていたぜ。
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