じゅんきゅうしょ

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 少年に追跡されている、彼の名前は知らない。

 十二、三歳くらいで、大きな荷物を背負っていた。おれに『竜の謎』というのを、解くのを手伝ってほしいらしい。

 けれど、ことわった。ことわったものの、彼はあきらめない。徒歩で移動するおれの後をずっとついてくる。

 で、歩む道は孤独感ただよう平地の光景から、町へと続く。陽はまだ高い。

 たどり着いたのは、それなりに大きな町だった。けれど、町に人がほとんど歩いていない。むかし来たことのある町なので、町のだいたいの地図は頭の中に入っていた。

 あと、むかしの活気ある町だったことも、記憶にある。

 町の建物はさほど変わっておらず、なんとなく町全体は老いている感じがある。ながい無音の中に沈んでいるようだった。

 記憶を頼りに細い路地へ入る。この先には、このあたりの竜払いたちが、依頼を待つために集う酒場があるはずである。

 陽の光が届かない路地の角を曲がって進む。あの名も知らぬ少年も後からつきてきていた。帽子からはみでた髪を揺らし、大きな荷物を担いで追いかけてくる。

 彼はあきらめない。

 いっそ、走って振り切ろうと思った場面もあった。けれど、そこは人里離れた山の中だった。その場に少年ひとりを取り残してしまうのもしのびない、それに、むかしは時折、山賊も出た記憶もある。

 おれは振り返らないまま考える。彼はあきらめないし、懸命についてしてくる。ならば、少しくらい話を聞いてみてもいいのでは。

 わかりやすく、情に流されかけていた。

 そのとき、彼の気配が消えた。振り返りみると、後ろをついてきた少年がいない。

 入り組んだ路地を行くうちに、つい振り切ってしまったのだろうか。

 そこで来た道を引き返しす。すると、少年はとある路地で、刃物を持っている相手から、襲撃を受けてた。

 露骨なまでに、ならず者っぽい人物である。

「ここを通りたきゃ、ええ、な、おい、はは、わかるだろ? ええ?」

 通行料の脅迫か。しかも、子ども相手に。

 くだらない奴にちがいない。

 おれは足早に現場へ接近する。

 その間に、少年は動揺し、硬直しつつ、問いかける。

「あ、あの………あなたは…………」

「ええ、ああ、俺か? 俺はぁ、山賊だよぉ!」

 と、男は誇るように叫んだ。

 すると、少年はおびえながらいった。

「山賊………でも、あなはいま山じゃなくて、町に、いますよ―――町に」

 と、指摘した。

 山賊なのに、町にいる。

 その指摘は、まあ、そうだな。その通りである。

 とたん、男は動きを止めた。つぎに、全身、ぷるぷると震えだす。

「あ、い、いや、だって………さいきん、山にだれもこなくてさ…………もちろん………俺だってしかたないのはわかってるさ………この大陸全土で人の数が減ってるし、その影響だってのは…………」どうやら心の葛藤の開始である。「わ、わかってるよ! 俺だってさ! 人が減ってるから、山に来る人も減るのは…………ここんところ山の中でまちぶせしててもだれもこないし………それでしかたなく………この町へ………町へ…………し、しかしな! こ、心は山にあるから、俺ぇ! 心はいつも山と一緒だからぁ! そうだから――――」

 なにかを、必死を訴えだす。

 訴えるその姿は魂の叫びにも属するか否か。

 それはそれとして、訴えるその姿はまた、ゆだんの塊でしかなく、おれは背後から蹴った。

 首の付け根を蹴った。

 子どもから、お金をとろうとしたから、準急所を攻撃である。

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