おもわれて
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
追跡者がいる。朝から、あとをずっとつけられている。
相手は少年だった。十二、三歳くらいで、買ったばかりみたいな真新しい冒険服をきて、かぬった帽子の端からは、ふわふわした髪をはみださせている。背中には大きな荷物を背負っていた。
短剣は所持してるものの、戦闘能力は皆無そうだった、その足運びでなんとなく察せる、訓練も実戦の経験も感じられない
少しまえ、彼が竜ともめかけていた場面に遭遇した。そこへおれが介入し、彼の危機を回避した。その後、彼はおれへ、とあることを手伝ってほしい、と頼んで来た。
けれど、断った。そして、彼に家へ帰るように伝えた。勝手にす推測するに、彼は、きっと、まだ、しかるべき時間帯に、しかるべき学校へ通う年齢だろうし。
丁重に断った。にもかかわらず、彼はここ数日、追跡してくる。
むき出しの岩だらけの道を進む俺の後を、彼はついてくる。
町に入ると、やはり、同じように町にへ入る。
その町で店で麺麭を買い、齧りながら歩くと、彼も同じ麺麭を買い、齧りながらついてくる。
おれが道の端で、一休みしながら、本を読んでいると、彼も座って鞄から本を取り出し、そして、こちらを見る。
彼の方は本を見てないので、きっと、読めていない。
それはそれとして、おれが本を閉じ、立ちあがった。出発すると、彼も慌てて出発する。そこでちょっと足早に移動すると、彼も足早になった。つぎに野原にいた野良猫へ、やあ、と、声をかけてみると、 彼も猫へ、やあ、と声をかける。石を拾って、川へ投げると、彼も投げた。
彼は追跡し、いつか訪れるだろう説得の好機を待っているようだった。けれど、追跡ではなく、模倣の方の熱量をそそいでいる印象がある。彼は、なにかを見失っていた。
とにかく、追われほう、模倣される方としては、落ち着かないこと、この上ない。
どうにか穏便に、彼に追跡を断念させる方法はないか。
歩きながら考えているうちに、川にかかる、とある吊り橋までやって来た。古い吊り橋で、異様に長く、細く、よわい風が吹くたびにひっくりかえりそうになるほど大きくゆれ、張りつめた綱もかなり痛んでいる。足場の木板もぼろぼろだった。
そして、橋の下には、そこそこ流れの強い川が、ごごご、と音をたてて流れている。
わかりやすく危険な橋である。
こんな橋を手入れもせず、放置しているなんて、きっと、自治体の弱体化が。
いや、それはそれとして。
ふと、彼のようすをうかがうと、顔が青ざめている。どうやら、この、ぼろぼろの橋を渡るのが恐いらしい。
もしかして、このまま先におれが橋を渡ってしまえば、彼は恐怖で橋を渡れず、追跡不能になるのではないか。
そう思い彼を見る、やはり、顔が青ざめている。
やはり、苦手なのか。恐いのか。
そうか。
行くか。
けれど、まてよ。なんか、ひきょうでは、ないか。
彼の苦手につけんで、追跡をまくなど。
その場に立ち止まり、考える。
すると、彼がそろりそろりと近づいてきた。
「あ、あの」
そして、おれへ声をかけてた。
「もしかして、この橋がこわくて………渡れないんですか?」
あ、そう思われたのか。
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