ふもうでみのる
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
ふと思い立ち、種を入手するために出かけた。
種。
そう、なんらかの種を手に入れよう。
で、滞在している町から、まる一日かけて草原を歩き、港町へ向かう。そこで種を探すことにした。
もくもくと草原を歩いているうちに、だんだん、空腹になってきた。それで、食べものことを考えはじめいた。それで、最終的には、花よりは、食べものの種がいいと思い出す。
そして、港町へ着くころには、ああ、ひさしぶりにりんごが食べたい、と思うようになっていた。ながなが歩き、つかれているので、身体が糖分をほっしているらしい。
なので、りんごの種を探すに決定である。
貿易の盛んな港町には大勢の人と物が集まっていた。
露店が並ぶ通りを歩く。さまざまな者が売られていた。行き交う人々の中を進みながら、種が買えそうな場所をさがした。
けれど、まてよ。そもそも、この大陸に、りんごは流通しているのだろうか。
そのとき、ふと気配を感じた。どうやら追跡されている。
そこで相手に気づかれないように背後をうかがう。
見ると全身、真っ黄色な外套を羽織った女性が追って来ている。三十代後半あたりか、鼻が少し、上向きで、外套からはみ出た髪は金色をしていた。
相手の追跡の動きは優れている、けれど、あんな目立つ格好なので、高等な追跡技術は相殺どころか、むしろ、台無し以上である。
その証拠に町角で母の手にひかれて歩く子どもに、じっと見られている。いっぽうで、大人はみないふりだった。真っ黄色な外套ゆえ、要注意人物だと認識されている。
露店の並ぶ通りをぬけ、広く、かつ、ばくだいに人目のある場所に来た。おれは立ち止まり、身体全体で振り振り返ってみせた。
真っ黄色の彼女はそこに立っていた。一足踏み込んで、届く間合いである。
一見、相手は得物を所持していない。
対して、こちらは背中に剣を背負っている。けれど、これは人と戦うための剣ではない、竜と遣り合うための剣だった。
彼女は無言のままこちらを見る。にらみつけてはいない、ただ、見ていた。
何者だろうか。
やがて、彼女の目がほそまった。
来るのか。こんな人が大勢のいる場所で。
「ヨル、おまえにかかった賞金は、わたしがいただく」
賞金―――賞金、ってなんだ。
しかも、むこうはこちらの名前を知っている。
やはり、五者の仕業か。
「しかし、わたしは暴力はきらいだ」
そう宣言を放つ。
「だから! すっぱいりんごをどれだけがまんして食べられるかな対決で勝負だ!」
「むりです」おれは彼女の目を見て全面拒絶した。「いや、そもそも、そういう感じことを言い出す君を、人として、がまんできません」
と、伝えた。
「では、まず、わたしから!」けれど、こちらの話は聞かず、彼女は外套の下からりんごを取り出し、かじる。直後に「うぎっ、すっぱっ!」と、悲鳴をあげ、むせて、その場に片膝をつく。
彼女の濃厚な身勝手行動をくらいつつ、それでも、わかったことがある。
どうやら、この大陸にも、りんごはあるらしい。
なるほど。
というか、なんなんだろう、不毛な体験に実る、この感じの情報の収穫は。
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