なぞなぞきっと

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 空と草原しかない世界を進む。

 晴れていた。起伏がなく、草はくるぶしあたりまで生えていて、真っ平らな地面である。木とよべるような木もない。

 町はまだ遠く、人家もなかった。

 今日は風も吹いていない。

 そもそも、草原には道もない。ただ、おれが毎日、往復して歩いている場所の草原部分だけ、ほんの少し、へこんでいた。ほんの少しだけである。

 剣を背負いつつ、なにもない草原を歩む。そんな二十四歳、男性。

 ヨル、それがおれの名である。

 で、背中に背負ったこの剣は、竜を追い払うための剣であり、人と戦うための剣ではない。

 とはいえ、ここには人がいない。

 けれど、竜がいた。いままさに進行方向にいる。牛ほどの大きさの竜だった。そこに鎮座していた。赤い竜である。

 おれは竜を追い払う、竜払いとして生きていた。ところが、この土地では勝手に竜を追い払うことを禁じられている。かりもしも、勝手に竜に手を出せば、罰を受けることになる。

 もっとも、依頼がなければ竜を払うことはない。

 竜は危険な生命体だった。人がとやりあうとなると、どうしても命をかけることになる。ゆえに、誰からも依頼がないのに竜との接触する趣味はなかった。

 進行方向で鎮座する竜に対し、大きく迂回して先へ進む。なだらかな弧かいて進み、竜を大きく回避する。まっすぐに進んだ方が、だんぜん町までの距離は近いけどしかたがない。

 竜に迂回して、もうこのあたりでだいじょうぶだろう、と、思った矢先だった、ふたたび竜を感じた。あたりをさぐると、別の竜がいた。今度はうさぎほどの大きさの竜だった。草むらの中にいた。

 小さな竜だけど、竜は竜である。この竜との接触も避けなければ。

 ここも迂回した。そして、二回ほど迂回した影響で、いつもは足を踏み入れない場所まで来てしまった。

 すると、新しい気配を感じる。

 竜ではない、人だ。

 視線を巡らせると、少し高くなった草むらの中に、人が立っていた。頭から緑色の外套をかぶり、自分の背ほどの長さの杖を持った小柄な老女だった。緑色の外套のせいで、草原の中に立っていると、わかりにくかった。

 ここは町から離れている。人家もない。

 あるのは草原のみである。

 人がこんなところにいる。驚きつつ、竜がたくさんいるこの草原に彼女、ひとりでいるのは、あぶない、と彼女へ伝えようと近づく。

 やがて、大声を出さなくとも聞こえるだろうという間合までつめ、おれは足をとめた。。

 頭にかぶった外套からは、じゃっかん、彼女の長い白髪が溢れていた。彼女の身長ほどの長さがあり、その先端には、赤い水晶のようなものがくっついている。

 独特の迫力と、雰囲気を保持した外貌だった。

 おばけかな。

 けれど、まだ、昼間だ。太陽もある。

 太陽の下にいるなら、おばけであるまい。

 と、根拠のないことを思いつつ、声をかけた。

「あの」

「そなたよ!」とたん、彼女は大きな声を放った。「すべての謎を解き! よくぞ、ここまでたどり着いた!」

 まて。

 あの、って声をかけから、なにか、妙な返しをされたぞ。

 とりあえず、ここは、相手を泳がそう。

 そして、こちらの願望通り、彼女が口をひらく。

「ここはぁ! せ、せ、世界各地に用意された最悪なほど難易度の謎をすべぇてええ! そう! すべてええの謎を解かなければぁ、絶対にぃいたどり着けない場所ぉ! もしも一回でも間違えたら即時終了の謎を解かなければたどり着けない場所!。そして、いままで長い年月、誰もたどり着けなかった! しかし、そなたぁ! そう、そなたはぁ! 世界各地に用意された、考えただけで、もう、嫌気爆発ないう各地の謎をみごと解きぃ! いまここにたどり着きし者! いいか! これまでここまでたどり着けたのはそなただけだぁ! ここはただ歩いだけで絶対にたどり着けん地!」彼女は高らかにいった。「よくぞ各地の謎を解きぃ、解きぃいいいいい!」

 謎。

 謎なんて、解いていない。

 というこごは、これは。

 これは。

 あれかな。

 先方さんの背後には、何らかの壮大な設定があり、そして、おれが偶然ここを通かかったことにより発生したー、いばな、事故、なのかな。

 うん、事故なんだろうな。

「さあああああああ、この世界の謎を解き明かした者よ! これぉ受け取るがいい! さささあぁ! こっ、これが! 伝説のぉ! 伝説のおおおおおおお!」

 と、叫んで彼女は懐を、がさこそしだす。

 むろん、おれは受け取れないので。

「知らない人から物はもらえません」

 そういう言葉で伝えた。

「うそぉぉおおおん!」

 とたん、彼女は叫び、その場へ、大きくこけた。ずず、っと、頭から。

 高齢そうなのに、機敏なこけ方だった。芝居じみたこけ方である。

 なぞなぞ言っているけど、機敏な動きで、かつ、芝居じみたこけ方をするんなら、きっと、大した緊張感の話でもないだろう。きっと。

 そして、おれは、彼女に、どんな謎なのかは、きかなかったので、謎は謎のままある。

 大した緊張感の話でもないだろう。きっと。

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