ついきゅう

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 とある町にいる、ズン教授という男の家に滞在している。滞在というか、拠点にしているという感じだった。

 彼の年齢は四十歳くらいである。町の人々から、ズン教授と呼ばれているものの、おれの検知するかぎり、彼が教授らしき挙動はしていない。ずっと、自宅にいて、本を読み、ふいに声をだして笑ったり、怒ったり、感情の不安定を披露したかと思うと、誰も見ていない黒板へ向かい、なにかを書きながら、ぶつぶついっている。

 そもそも、この町に教授を要するような規模の学校があるようには見えない。

 もしかして、自称の教授だろうか、偽教授だろうか。

 そして、どちらにも見える彼の外貌は、やっかいである。

 とはいえ、直接、本人を問いただしたりして、真実の追求はしていない。なんとなく、それは知力と体力の不毛な消耗になる気がしていた。

 それはそれとして、少し前、この町に移住したい、と言い出したサンジュという女性を、実際にこの町まで連れて来た。彼女は蓬髪を揺らした二十歳ほどの女性である。

 町に着くと、おれは彼女へ「住むあてはあるんですか」と、訊ねた。 

 彼女は「ちょろいもんさ」と、答えてきた。

 こちらの問いかけに対し、回答の形式になっていない。けれど、追求はしなかった。なんとなく、知力と体力の不毛な消耗になる気がしたゆえ。

 それからサンジュは「ここまで連れてきてもらっておいて、さらに住む場所の世話までは頼めない」と、いった。「そこまで、わたしは、ずうずうずうしくない」

 ずう、が一個多い。

 追求はしなかった。

「そうか」

 と、おれはいった。

 その後、サンジュはズン教授の家に住みだす。

 正確には、彼女はズン教授の家の屋根の上に、天幕を設置して、そこに住みつきだす。

 追求はしなかった。無視をした。おれには見えてないふりをした。

 屋根の上に天幕を設置。

 燕の巣じゃあるまいし。まあ、いい。追及はしない。

 そこで住みついたサンジュから、これといった説明はなされなかった。いっぽう、ズン教授は自宅の屋根に、人が住みつき出したのを目にして言った。

「興味はない」  

 おれは「そうか」と、だけいった。追求はしなかった。

 そもそも、ズン教授とサンジュは面識はなさそうだったけど、追求はしなかった。

 その日からサンジュは水回り関係の生活作業が発生したときだけ、屋根から降り、ズン教授の自宅内外の水場の設備を利用した。とくにズンへ許諾を得ることなく、無言で利用している。けれど、おれは追求はしなかった。そもそも、ここはおれの家ではないし。

 おれの方は、毎日、竜が多数出現する草原を進み、隣の町まで歩いて向かっていた。隣の町の食堂で、毎日珈琲を飲むという名目がある。おれが家を出ている間、ズン教授がずっと家いるのかは知らないし、追求はしなかった。サンジュも日中なにをしていのか不明だったけど、追求はしなかった。

 で、その日も隣町へ行き、食堂で珈琲を飲み、ズン教授の家がある町まで歩いて戻った。途中、竜がいたけど、迂回して町へ向かう。毎日、歩いているので、しだいに、方向を知るための磁石を見る回数も減った。

 やがて、ズン教授の家がある町へ到着する。

 すると、家そばで。犬と戯れていたサンジュへ訊ねた。

「おかえり」

 と、彼女は言い、続けた。

「家主の、ズン教授ですが」なぜか、敬語を駆使してくる。「わたしが屋根に住みついても、水場を勝手につかっても、注意もしないなんて、どうかしています」

 そう言い、サンジュは犬の耳の裏をさする。

 で、言い放つ。

「変わった人だ」

 おっと、変わった人から、変わった人という感想を獲得したぜ、ズン教授。

 ということは、つまりあれだ。

 ズンの勝ちか。

 なるほど。

 なるほど。

 って、あ、しまった、勝敗を、つい追求してしまった。

 

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