いしうら

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 見渡す限りの草原である、地平線の彼方まで広がっている。

 この景色の中で、おれ以外、誰も歩いている者はいない。そして、道もなかった。

 草原をかき分け、進む。頼りない地図を頼りに、方向は特殊な磁石で確認しつつ、ひとつ前に滞在した町へ戻る。

 陽は高く上っているものの、時々、流れる雲にふさがれ、地上は薄く翳った。

 とにかく、ここには、おれひとりだった。

 で、思い立ち、剣の素振りをすることにした。

 日に一度は、剣の素振りをするようにしている。剣をひと振りすれば、その振ろの良し悪しで、自身の身体の状態が確認になる。それに、剣というものは、長い時間ずっと振らずにいると、やがて、どう振っていたか忘れてしまうがちである。しかも、いっぽうで、かつての感覚を取り戻すには、なかなか時間がかかる。

 と、個人的には思っている。

 とはいえ、おれの背負っている剣は人と戦いための剣ではない。竜を払うための剣だった。

 竜は、人が人を傷つけるような武器、たとえばそう、鉄製だとか、火器だとかで攻撃すると、ひどく激高して、他の竜を呼ぶ。それから群れで、世界を無差別に攻撃する。かつて人間は、竜を知らず、無知のまま竜へ手をだし、そして、世界は何度も滅んだ。

 そして、この大陸では八年前にも、それが起こったという。

 ただし、竜は、ふしぎと竜の骨つくられた武器、竜の骨出来た武器などで攻撃すれば、怒りはするけど他の竜は呼ばない。世界を無差別に攻撃しない。それに、竜はある程度、傷を負うと、空へ飛んで行ってしまう性質がある。

 そう、竜は倒さなくとも、追い払う方法がある。

 そして、おれは竜を追い払う、竜払いである。

 ゆえに、おれが背負っている剣の剣身は、竜の骨で出来ているので白い。それに特別、刃を入れていないので何も斬れない。

 この剣で、竜を叩いて追い払ってきた。

 けれど、ここのところ、竜を追い払っていない。この大陸では、どうやら無許可で竜を追い払うことを禁じられる。その決りをやぶれば、罰がくだるという。

 どんな罰かは聞いていない。

 けれどまあ、安易に竜を払うことはさけよう。

 で、それはそれとして、竜を払えない日々だろうとも、やはり、日に一度は、剣を握っておかなければ。

 と、思い、背中から剣を抜く。

 空を剣で叩く。誰もいない、草原の真ん中で、剣を振る。

 悪くはない気分だった。

 それを終えると、今度は地面で手ごろな石を探した。

 投石の練習である。素振りほど頻繁にやっていないけど、時折、石を拾っては投げる練習していた。投石は、竜を払う際に限らず、なかなか汎用的に使える手段だった。けれど、こちらも剣と同様、たまに投げると、うまく投げれない。定期的に練習が必要である。

 で、草原の合間に視線を向けて、手ごろな石を探すも、なかなかみつからない。みつかるのは親指くらいの大きさの小さな石ばかりだった。もっと、こう、片手で握って、それなりの重量感がある石が望ましい。

 時間をかけ、やがて、草原の隙間に、ひとつ石を見つけた。手ごろな石である。

 よし、と、思い、石を拾い上げる。

 すると、石の裏には、だんごむしが、二匹いた。

 そこでおれは考えた。

 あ、もしかして、このあたりには大きな石は少ないので、このだんごむしたちにとって、この石は、かなり貴重な、住処となる石なのではないか。なにしろ、石の下なら、鳥に狙われないし。

 なので「すいません」と、いって、石は地面へ戻したさ。

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