なじみみる

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 この草原は竜の草原と呼ばれている。

 歩みながら見渡す限り、まっ平らな緑の草原である。八年前、この大陸は、激高した竜の群れにより、かなりを焼き払われ、このあたりも、いまはただ地面に草が生えるのみである。

 木は一本も生えていない、足元に草が生えているのみだった。遮蔽物もないので、ここからでと、かなり遠くにある町が見える。けれど、見えているだけで、徒歩にて到着するには、まだまだ距離がありそうだった。

 とりあえず、そんな遥か遠くに見えている町を目指し歩いていた。それ以外、視界には、やはり、木もないし、人工物の類もない。

 これまで様々な大陸で草原を歩いて進んだことはある。けれど、ここまで見事に起伏のない地面の草原を歩むのは初めてだった。足元に広がる緑の中に、点々と小さな花ぐらいは咲いているものの、あとはとにかく、人の文明を感じさせるものがない。

 いや、あった。あそこに、ちょっとした岩があるぞ。

 しかも、腰を下ろすには丁度、よさそうな高さである。そこで座って休憩することにした。

 背負っていた剣も外す。

 座った状態で、あらためて草原を見る。一瞬、まるで、緑色の海の真ん中に取り残されたような、奇妙な気分になった。

 そして、やはり、遠くに町らしき何が見えるだけで、人工物はない。

 それに、生物の姿も見えない。

 八年前、この場所は竜の群れが口から放った炎で焼かれたという。なら、もしかすると、ここはに町があったかもしれないし、個人の家があったのかも。

 あるいは畑だったのかもしれないし、森だったのかもしれない。

 かつては、ここに生き物たちもいただろうに。けれど、いまは見当たらない。この草原には、竜がたくさんいると聞いた。人は竜が恐いけど、人以外の生物も竜は恐い、だから、みんなどこかへ行ってしまったのかも。

 では、生き物たちはどこへ行ってしまったのか。 

 そして、いまここにいる、そこそこ大きな生命体は、人である、おれのみである。

 孤独だった。この緑の中の孤独には独特な感触があった。これまで体験したどの孤独とも、種類がちがう。

 おれはこの奇妙な孤独が身体に馴染むまで待った。

 やがて、息を吸って吐く。

 とりあえず、昼食でもとるか。なにか胃入れよう。

 そう思い、外套の下を探る。所持していた麺麭を取り出す。

 とたん、気配がした。

 見ると、草原の中から小鳥たちが四羽ほど飛び出して来た。

 つぎに、うさぎが三羽、耳を立てて顔をあげる。

 続けて、小さな犬が二匹ほど、草の中から出た。

 さらに猫も出て来た、草の下から、ぬるり、と四匹。

 あと、草に寝そべって隠れていたらしい、小さな鹿が一頭。

 麺麭を取り出したら、みんなが出て来た。

 そして、おれは近くに潜んでいや小動物たちによって、たちまち囲われた。で、みんな、おれの麵麭を凝視している。

 麺麭を食べたいのか、君たち。

 というか、いたんだな、みんな。

 そして、食欲旺盛なんだな。

 そうか。

 麺麭は、視線の圧力で屈して、あげてしまったけれども。

 なんか、安心した。

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