いやもはや
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
手紙でも書こう。
またにそういう気分が発生する。
この手紙が書きたい気分は、発生したときに、即時実行しなければ、またたく間に先延ばしになる傾向がある。いや、むろん、これは個人の資質の問題である。
なので、すぐ書こう。
この旅の空の下から、知人へ手紙を書く。そこには、おれの生存報告の役割もある。生きています、と。
いや、向こうが、こちら息の根の有無を気にしていない可能性はあるけど、ただし、手紙というのは、こちらから一方的に送り付けることができるし、それにときどきは、文章も書いて置かなければ、文章の書き方も忘れてしまいそうである。
そんな、竜払いのおれである。
二十三歳の住所不定の男性の、おれである。
いや、二十四歳だったっけか。
ん-。
落ち着こう。
で、いまいるのは、とある港町だった。乗って来た船で聞いた話、この港町にある、とある雑貨屋で手紙の配達を受け付けてくれるらしい。
ひとまず、その雑貨屋へ向かう。
港町ゆえ、町の通りには船乗りと思しき者たちが多く歩いている。他には貿易関係らしき仕事の者たちがいるようだった。そういった人々が集まる町なので、そういった人々向けに、商いを行う商店や、露店は多い。ただ、少し路地裏へ入れば、昼間から酔いつぶれて、路上に寝転んでいる者たちも見られた。
目的地である雑貨屋は町に西側にあった。かすかに海が見る場所に建っている。木造で、まだ新しそうだった。軒先を見上げると、たしかに店先には郵便受付を示す、看板がさげてある。
店の中へ入る。そこに、えりあしだけ長い黒髪に、髭を生やした店主が会計台の向こうに立っていた。
眠そうである。
店内には他に客はいない。棚には数多の雑貨があり、そこに手紙が書けそうな紙も、封筒も売っていた。
それを手に取り、店主の元へ向かった。
「あの、手紙を出したいんですが」
「手紙?」
店主は眠そうな目をこすりながらの接客を放ってくる。
おれはそこへ「その前に、配送料金を知りたくて」と、伝えた。
「お客さんは、ぜんぜんこのあたりの人じゃないね?」彼はそうって、こう言葉をつなげた。「高いよぉ、手紙の配達料金」
高いのか。
まあ、おれが手紙を出したいのは遠く離れた海の向こうの大陸だし、高額になるのは、しかたない。ある程度は、覚悟しておいた。
けれど、最終決定意志の決定は料金を聞いてからということになる。
「手紙を出したいのは海の向こうなんですが」
そう伝えると、店主は「あ、なんだよ」と、とたん、かるい調子になった。「大陸の外かい。なら、そこまでしないよ、安いよ」
おや、大陸の外なら、そこまでしない
「それはどういう」
「そうか、お客さんはさ、海の外から来たんだろうから、知らないんだな。あんね、大陸の中は配送送料が高いのさ。いまは大陸内部の流通は完全に『五者』が仕切ってるからね」
「ごしゃ」
ごしゃ、とは、なんだ。
「この大陸は、手紙も物資も『五者』が大陸内のすべての物流を見事に仕切ってる。ああ、でも、大陸の外側は値上げはされてない。ま、五者は采配はこの大陸の中だけの話だから。外はむかしのままの値段だ。この港から外の大陸へ手紙を出すのは、常識的な料金だよ。ここはさ、貿易関係で、海の外から働きに来る者は多いからね。港から別の大陸の外へ送る手紙は特別に安くしてあるのよ」
なるほど。
けれど、その大陸の中の輸送量料金が高いというのは、なんだろうか。
ごしゃ。
五者とは。
おれが疑問に思っていると、店主は「で、なに、出すのかい? 手紙」と、訊ねて来た。「誰に出すの? 奥さんに?」
「いいえ、友人たちへ」
「そうかいな」
「手紙はこれから書きます。というわけで、まずこれを買います」
そう伝え、おれは店にあった紙と封筒を購入した。その後は店主の許諾を経て、店内の一席をかりて手紙を三通ほど書いた。きほん的には、元気ですよ、という内容の手紙である。
書き終えて、店主へ料金を支払い、手紙を託す。
「ほあー、お前さん、ずいぶん遠いところから来たんだなねえ」手紙の住所を見て、店主は驚き、それから笑った。「こりゃあ、届くまでには、かなりかかるだろうな」
おれは「ええ」と、いって、彼へ一礼し、店を出た。
そして、空を見て思った。
そうか、おれは、もはや、奥さんがいるような人間に見える感じの外貌なんだな。
二十三歳の住所不定の男性。
いや、二十四歳だったっけか。
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