みちみちみちている

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 海を越え、港につく。

 甲板から、もやい綱が投げられる。

 船は港へ到着した。

 おれは剣を背負い直し、下船した。まだ踏み入れたことのない土地へ足を踏み入れる。

 港は簡素なつくりだった、木材で建てられたまだ新しい貿易用の倉庫ばかりが目立つ。

 気候は、かなり涼しく、海面に反射する陽の光りがまぶしい。

 いまこうして着ている外套は、ここでは少しあついかもしれない。どこかで、薄手の外套に替えるべきか。いや、けれど、急にさむくなったら、こまるし、判断は様子見である。

 おれが乗って来た船では早々に荷下ろし作業が始まっていた。屈強そうな者たちが動き出している。言葉は前の大陸で多少おぼえていたので、多少、理解できた。

 といっても、しょせん、多少である。

 多少とは、多少の域を出来ないから多少であって、すなわち、多少でしかなく、そこまではしゃべったりはできない、聞き取れたりはできない、わけであり。

 それが多少という状態さ。

 で、未知の大陸へ降り立つ。

 足元へ目を向けると、地面に見知らぬ一凛の花が咲いていた。花びらに白に赤い斑点がある。じゃっかん、毒きのこめいている配色の花である。

 この大陸には、こういった、おれのまだ知らぬ植物もあるのだろう。

 そんなことを思い、おれがその花を眺めているときだった。

「おや、ヨルさん」

 と、乗せてもらった船の船員の男性に声をかけられた。おれは頭をさげて返した。

「なにをしてるんっすかぁ、そんなところ立ち止まって」

「ああ、いえ、この花は、はじめてるな、と思って、ながめていました」

「ほーう、どれっすか、ええ?」

「これです。名前もわからなくって」

「あー、これっすか、ほー」

 彼も花を見て、そして、しばらく黙った。

「いやぁ、わたしも、わかんないっすね、この花の名前。あ、そうそう、うちの乗組員にね、、花にとんでもなく詳しい奴がいるんで、ちょいと聞いてきますっす」

「いや、なにもそこまでは」 

 遠慮した、そのときである。その花の近くに一匹の虫が飛んで来た。全身に、とげとげが生え、そのとげとげの先に、なにか丸いものがついた黄土色の虫である。

 おれは「この虫も、見たことがないです」と、いった。

「んんー? この虫っすか………ああ、名前はわからないなぁ、あで、でも、そうそう、うちの乗組員に虫にね、とんでもなく虫に詳しい奴もいるんで、ちょっくら聞いてきまっすっす、この虫はなにかって」

 すると、さらに、そこへ小鳥が飛んで来た。全身銀色で、嘴が木材みたいな小鳥である。

「あ、この鳥も、はじめて見ますね、おれ」

「おっとっと、あ、うちの船にはね、鳥にも、とんでもなぁーく、詳しい奴がいまっすすので、聞いてきてきまっすっす」

「いや、ほんとう、いいんです。にしても、まったく、さすがですね。初めて来た大陸だから、地に咲く一厘の花にしたって、ふと現れた昆虫にしたって、この鳥にしたって、この目にするのは、知らないものばかりです」

 ゆえに、新鮮な気持ちの連続である。

 そして、これからおれはこの大陸で、まだまだ見知らぬものに出会う続けるだろう。様々な発見もあるにちがいない。

「そうですか、ヨルさん、なるほどぉ。ああ、でもでも、やっぱ、ちょっとここで待っててくださいっす、すすすー、っと聞いてきまよ、すっすっと」

 彼はそう言い、花を摘んで胸に差し、さらに昆虫を右手にのせ、鳥を左手にのせ、一度、船へ戻った。

 ほどなくして、彼は駆けてこちらへ戻って来た。

「ヨルさん」

「はい」

「さっきの花と、虫と、鳥、すべて未知の新種だと発覚しました。三点すべて大発見です」

 そうなのか。

 つまり、おれがまだ知らないだけではなく、そもそも、人がまだ知らないものだったのか。

 そういう感じの発見もあるのか、この大陸は。

 なるほど。

 あなどれねえ。

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