だれかがつくったから
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
旅を続けるために必要な物資を調達するため、その町に立ち寄った。あと、もう少しで歯磨き粉がなくなりそうである、それに石鹸もほしい。
そこは、なかなか、大きな町だった。町の中心部にある大通りには、多くの商店が立ち並んでいた。そこで欲しかった品々を手に入れた頃には、昼食時になっていた。丁度、みつけた麺麭屋で麺麭を買かった。
大通りに腰かけられそうな並んだ縁石あり、そこに何人も座って談笑していたししたので、おれも腰かけた。
そこで麺麭を齧る。
目の前の通り、人々が絶えず通り過ぎてゆく様子を眺めながら咀嚼である。
「ささささあぁ! みんなぁぁ、気ぃ、限界まで引き締めてけよぉ!」
ふと、女性の声が聞こえた。
見ると、縁石のすぐ近くで、家を建てていた。かなり広い土地に、家の基礎部分をつくっている最中らしい。そこで十数人ほどの職人たちが作業をしていた。
声を放ったのは、三十代ほどの女性だった、手に図面を持ち、鋭い目つき工事の指揮、および進捗管理しているようだった。おそらく、彼女がこの現場の親方的な人なのだろう。
基礎工事の大きさから察するに、かなり大きな屋敷が建ちそうである。いまは、基礎部分と、そこへ数本の柱が立っており、なんだか屋敷の骨格っぽい。
何かを造るという作業は、見ていて、なかなか楽しいものがある。
それで麺麭を齧りながら、つい、見てしまう。
「だいじに行くぞぉ!」彼女が作業する人々に、はっぱをかける。「ここは、この屋敷の重要部だぞ! 失敗すると、取り返しがつかないからねぇー!」
彼女が責任を持って、この受注に挑もうとしている様子がよくわかる勢いだった。
「あ、ちょい、そこぉ!」
とたん、彼女が声をあげた。
「だめだめぇ! そんなふうに、いい加減に、目だけで見て、やったら、だめだからぇ! 道具つかって測ってやんなきゃ! 平行にならないよぉ!」
厳しいげきも飛ぶ。
注意された作業員も心当たりがあるようで「へ、へい、すやせん………」と、謝った。
「だめだからね! きっちりしないと! そこは、歯を食いしばりながら正確にやんないと、ちゃんとした、隠し落とし穴にならないからね!」
「へ、へい!」
ん。
落とし、穴。
「あと、そこっ! そこも、だめだめ、しっかりやんないと、石像を腕をひねると、隠し階段が、ごごご、って自動的に出てくる仕組みが動かないかねえ! 階段を隠してるのも、ばれるからねえ!」
隠し、階段。
それを大きな声で言い放つ。
おれは、視線を通りへ向けた。ここは人の通りが、かなり多い。
「あと、そこもだ! 天井が、ずががが、って落ちてくる仕掛けのとこ! 絶対に、ばれないようにしないといけないんだよ! 天井が、ずごごご、って落ちてきそうな感じを、絶対にばれないようにね!」
それも、大きな声で言い放つ。
あまりに大きな声なので、通り過ぎる大勢の人々が見ている。
「いいかねぇ、みんな! 全力で気ぃ、引き締めてっててねえ! しっかり! しっかり造らないしないと、仕掛けが、ばっればっれの、哀れなばればれ屋敷になるからねえ! 絶対に、仕掛けが、誰にもばれないようにぃ、造るよぉ! 落とし穴も、隠し階段も、落ちてくる天井も、隠し扉も、廊下の壁から矢とか飛び出すやつとか、それと自爆装置も! 絶対にわからないように作り上げるぅぅぅ! それが、職人の業だからさああああああ!」
その職人魂とも言うべき声は、大通りに響く。
魂が入っているので、きっと、屋敷の出来だけは良いに間違いない。
間違いは、受注先だ。
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