なんかいなせんたく

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 晴れたので滞在している宿を出て、洗濯をしに向かう。竜の中には、においに敏感なやつも、竜払いは、つねに清潔であるべきだった。

 いいや、そんなことはない、と異論を唱える竜払いもいるだろうけど、そこは、まあ、哲学の違い、と、だけ言っておく。

 どこの町にも、たいてい公共の洗濯場がある、無料で使える。誰でも使えるものの、そこには暗黙の縄張りがあったりするので、心遣いに、ゆだんができない。いつも地元の人々のご機嫌をそこねないよう、端っこで洗うようにしていた。けれど、どうしても、地元の人々の精神的圧迫感により、断念する場合は洗濯屋を利用した、こちらは当然、有料になる。

 で、様々な事情から、今日は、洗濯屋を利用することにした。

 洗濯屋へ向かい、到着する。洗濯板みたいな看板が掲げてある店だった。

 中へ入ると、男の店員がいた。二十代後半あたりか、身体がよく鍛えてあって、なぜか、洗濯板のような腹筋がむき出しの服を着ている。

 他に客はいなかった。見ると、洗濯中の客のため、衣服の貸し出しも行っているらしい。おれのように旅をしている者にとって、洗濯している間、代わりの服を貸し出してくれる仕組みである。むろん、服の貸し出しは洗濯とは別料金である。

 せっかくなので、一番洗いたかった外套と、その他の衣服すべての洗濯を頼んだ。その間、簡素な衣服をかりて着こみ、剣を背負い直した。普段着に直接、鞘入りの剣を背負うと、少し違和感があるけど、清潔のただ、しかたない。

「明日までに洗っておきますっ」

 腹筋が洗濯板のような彼に、ぱき、と言われた。「お願いします」と、告げて店を出ようとしたとき、店に別の客がいた。

 三十代前後ほどか、こちらも鍛えた身体の持ち主である。彼も腹筋を出している、洗濯板のようだった。手ぶらで、荷物は何も持っていない。

その客は自身の着ている衣服を指さしいった。

「洗っていただきたいんだが、これを」

「ええ、いいですよっ」店員が応じいった。「しかし、見たところ、いま着ている服を洗っている間、着用できる服をお持ちじゃないようですがっ、かわりの服を着ますかっ」

 いま着ている服を洗うので、かりるしかないだろうな。つまり、業務の形式上の確認だろう。

「いや、洗っている間、服は」

 と、客の彼はいった。

「いらん」

 言い切った。

 直後、店員は「そんな客はいらん」と、言い切った。

 すると、丁度、新たに店に入って来た中年の客が「こんな、いらんやりを、客と店員でしている店は、いらん」と、いった。彼の腹筋も洗濯板のようである。

 そして、その男性の後ろを通過していた別の男性が「そういうことで不機嫌になるような人々は、いらん」と、いった。彼の腹筋が洗濯板のようだった。

 さらに、路上に斜め立って、斜めに帽子かぶった青年が「この町にいらん、とか、言い切るような人は、いらん」そう言う。彼も腹筋が洗濯板のごとく。

 そこへ二階の窓から、りんごを齧りながら見ていた二十歳歳ぐらいの青年が「大人は路上にたたずんで雰囲気だして、ちょうしにのったことをいうやつは、いらん」と、いった。彼の腹筋が洗濯板のよう。

 で、時間がとまったように、静かになる。

 おれはその場に佇んでいた。すると、店員の彼がいった。

「さあーて、いまのやりとろのなかでぇー、『いらん』という言葉は合計で何回でたでしょうーか!」

 明るく、そこ抜けに問題を放ってくる。

 すべて、仕組まれた流れらしい、おれに問題を出すために、きわめて難解な世界観である。

「当たれば、洗濯代無料です!」

「七回」

「せっ、正解ぃ!」

 即答すると、これまでの登場した、腹筋が洗濯板のような男たちが拍手はおくってきた。

 いや、実は八回なのに。

 ゆえに、おれの勝ちだ。

 うかれやがって、問題を出す相手のせんたくを、あやまったのさ。

 

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