まちがいとゆうき

 りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。

 だから、竜払いという仕事がある。



 その町で、もっとも大きな邸宅に暮らす一族から依頼を受けた。町の中に竜が現れ、人々が困っているため、追い払って欲しいという。

このあたりでは、その土地で最も資産があるような人が、近隣住民にために自費で竜払いを雇い、地域のために竜を払う習慣があるらしい。今日も、その流れの依頼だった。

 依頼を受けた現場へ向かう、そこに馬ほどの大きさの竜がいた。

 竜は、少しでも傷を負えば空へ飛んで去っていってしまう性質がある。ただし、その攻撃は、竜の骨で作成された武器で攻撃する必要がある。あと、飛んで行かせるためには、翼を攻撃しないように気をつけなければならない。

で、竜を払った。

 竜は空へ飛び去った。

 おれは依頼もとである、一族の邸宅へ向かった。依頼完了の報告をする。

「わっと、すばらしいですなあ!」

 邸宅の広間で迎え出たのは、一族の長である背広を身に纏った五十代の男性だった。

「すばらしいことです、ヨルさん! すばらしいったら、ない!」

 彼はおれの名前を呼びつつ、賞賛を与えてくる。

 彼の後ろには、彼の家族もいた。彼の母親らしき女性、妻らしき女性、子どもたちらしき者たちが、三名いる。みな、高品位な装いで、にこやかに笑っている。

 邸宅には他には数人の使用人たちもいた。

「ご提案したい! 我々と一緒にお食事はどうでしょうか! ああ、とっていっても、断らないでください、だって、本当はもうすばらしい料理を用意してしましましたので! ほかほかですので、どうぞ! 料理が無駄になるのは、いけませんからええ!」

 そういう言われ方をされたし、断る間合いも与えられなかった。

ゆえにおれはうなずき「では、ありがたく」そう答え、招かれることにした。

 その後、使用人に「こちらです」と、別の部屋へ通される。

 そこは大食堂だった。長い部屋には、見事な内装が施され、どこを見ても美術館のようである。長い部屋に合わせて、長い卓子があり、そこにはすでに料理が並んでいた。

 長の男性以外、一族の人々もすでに座っている。祖母らしき女性、妻らしき女性、子どもたちらしき三人、合計六人が椅子に座っていた。

「ささ どうぞ、さあ!」と、おれの着席をうながしつつ、長の男性も座る。

 ただ、椅子は六つしかなかった。

 けれど、料理は七人分ある。

「おおや、おおや、椅子がたりませですなぁ」長の男性がいった。「おーい、ヨルさんに、かわりの椅子を持ってきてー」

 そう使用人に呼びかける。

 待つこと、十秒、闇になった奧の部屋から椅子は運ばれて来た。

 運ぶのに四人がかりある。

 それは無数の髑髏が積み重ねてつくったような椅子、というより、白い玉座だった。大きなひじ掛けと、大きな背がある。巨大なかりに人食い熊が、どか、と座っても壊れなさそうだった。

 その髑髏の玉座が、おれの座る椅子、なのか。

 そう思った直後、使用人の一人が、はっ、した表情を浮かべ「しまった、まちがえた!」と、言い出し、四人で髑髏の椅子を闇の奧の部屋へ戻してゆく。

 その後、他の人たちと同じ椅子は運ばれてきて、卓子へ添えられた。

 使用人は淡々とした表情と口調でおれへ「おかけください」と着席をうながした。

 はたして、さっき、まちがえて途中まで運ばれた、あの禍々しさ全開の髑髏の椅子はなんだったのか。

 訊ねる勇気は、おれにはなかった。

「やっぱ、食事、いりません」

 ただ、食事を拒否する勇気はあった。

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