しあわせとりとる
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
竜は追い払った手応えはあったものの、時間差で吐かれた炎をくらいそうになった。
で、咄嗟に回避したため、背後にあった斜面へ着地してし、両足の均衡を崩し、倒れ、身体がそまますべっていってしまった。
斜面はなかなかの角度だった、砂利を弾きとばしつつ、抜き身の剣を片手に、ずるずると斜面をすべりゆく。なんとか踏ん張って、速度は落としているけど、停止が出来ない。
振り返ると、その間に、竜の方は翼を広げ、空へ還って行った。竜払いの方は、無事完了したようで、なにより。
けれど、その後のおれの方が無事ではない。斜面は長く、巨大な岩などはないけど、砂と小石のせいか、よく滑る。外套に身を包んでいなければ、体中、擦り傷だらけになるところだった。
片手には剣を持ったままだたし、限られた身体の稼働範囲では、やはり停止までは難しく、せめてずり落ちる速度が出すぎないようにするのがせいいっぱいだった。
すべり続けてゆくと、しだいに眼下に広がる草原が迫って来た。履いている靴が、すさまじい勢いで削れて行く気がし、壊れるのではないか、と、思い始めた頃だった、斜面の下がちょっとした池であることがわかった。
よし、このまま池の中へ落ちよう。
池の深さへの懸念はある、けれど、地面よりはいいだろう。
そう決めた直後だった。
池の真ん中に、何かが見えた。
あるひ、だった。あひるの親子が、池の真ん中をただよっている。
いかん、池の真ん中には、あひるの幸せがある。
そこで、左へすべる。
すると、池の左側にもなにかいる。
かも、だった。かもの親子が、池の左側で、ぴちぴち、楽しくやっている。
だめだ、かもの幸せがそこにある。
となると、右へずれる。
で、池の右側にもいた。白い大きな鳥が二羽。白鳥のつがいだった。
ああ、そこには白鳥の幸せがあるのか。
真ん中、左、右。池全体を網羅するように、それぞれの鳥たちが浮かんでいた。
いっぽうで、おれは斜面をすべり続ける。停止する術もなく。
このまま池へ飛び込むと、三種類のどの鳥かの幸せを破壊するしかない。大きな声でも出して、鳥たちが飛ぶように促そうか思ったものの、時間がない、もう間もなく池である。それに大きな声で、逆に驚かれて、その場に留まられたら、いけない。
ここは、やるしかねえ。
と、決めた。
池へ落ちる直前、おれは立ちあがって、飛んだ。力のあらん限りを込めて、踏ん張り、斜面をすべる勢いも込めて、大きく飛んだ。。
飛んで、虚空に放物線を描いた果て、なんとか池を飛び越えた。
池のふちへ着地。
いや、失敗し、落下して、ごろごろと派手に地面を転がった。
すると、池にふちには鳩の群れがいた。
幸せそうに、地面の柔らかい草でも嘴でついばんでいたらしい。鳩たちは、急なおれの登場に驚き、一斉に空へ飛び立った。
おれは寝転がったまま、空へ飛び去る鳩たちを見上げた。
そう、けっきょくおれは、鳩たちの幸せを、とり。
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