401~
つうじない
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
竜は人が攻撃しなければ、何もしてこない。
けれど、人は竜が近くにいると、不安になる。
ゆえに、現れた竜を追い払い、人のいる場所から遠ざかる。
ただし、竜は人が人を攻撃する武器で、攻撃すると激高する。
たとえば、鉄の剣や火薬を使った火器。そして、銃弾、砲弾など、もっての他だった。そういったもので攻撃すれば、竜は怒り狂う。
さらに、それらで攻撃された他の竜を呼ぶ。竜は特異な場合を除き、単独で行動する。ただ、怒らせる、叫んで他の竜を呼んで群れとなる。
それが起これば、またたく間に、空一面が飛んだ竜の群れに覆われる。群れとなった竜たちは、人の文明を口から吐く炎で焼く、無差別に攻撃をする。大陸全土を焼き尽くす勢いで、焼く。
攻撃した人間のみではなく、人間そのものを否定する攻撃だった。一度、竜が怒り、群れとなり、空を覆うと、人に出来ることは、ほとんどない。滅びるだけだった。
これに対抗、あるいは未然防止するために、人はこれまで、何度となく、竜へ戦争を仕掛けた。竜を滅ぼそうと鉄の武器を使い、銃火器を駆使し、機械の力をぶつけた。けれど、滅ぼされたのは人の方だった。竜はそれまでの人の文明と、その歴史ごとを滅ぼしてきた。その度に、人の文明は、零に近しいものにされた。
こうして、人は無知に竜へ攻撃すれば、竜を怒らせると認識していった。たとえ、まちがえて、それらの武器で竜を攻撃してしまっても、同じだった、竜は人を無差別に滅ぼす。
そうした背景から、副次的に、人間同士に大規模な戦争もなくなった。戦争をして、誤って、竜に攻撃がぶつかれば、やはり敵味方なく、滅ぼされる。
とうぜん、その竜の性質を利用して、様々な企みを起こす者たちもいた。利用できた者もいるし、失敗に終わった者もいる。圧倒的に、失敗した者の方が多い。
竜は、人が人を攻撃するような武器で傷つければ、怒る。
けれど、竜に何度も世界を滅ぼされながら、人は少しずつ学んだ。情報を手に入れた。
竜は、竜の骨で出来た武器で攻撃すれば、怒るが、他の竜を呼ばない、群れとなって、人の世界を無差別に滅ぼしたりもしない。
しかも、竜の骨を出剛撃氏、少しでも傷を与えれば、空へ飛んで行ってしまう。
追い払える。
竜を追い払うのは、竜を倒すよりは、難易度がさがる。だから、可能な限り倒さず、追い払うようになった。
そして、人の近くに竜が現れたときは、追い払う。それを行う者、それが竜払い。
それをやっているのが、おれである。
いまは、東の空へ飛んでいった、へんな竜を追い、旅をしていた。
一度は、払った竜とはいえ、水を泳ぐ、特異な竜だったため、そのままにしておくのは、気になった。そこで、この竜を少しずつ、東へ向かって払い続けることにした。
最終的には、人の暮らしから遠く離れた場所まで、払うことに。
そんな旅である。
と、思いつつ、おれは目の前の光景へ、視線を向ける。
竜がいた。追い払っている泳ぐ竜ではない。まったく、べつの竜だった、とある農園の中にある、納屋のそばにいる。おとなの熊ほどの大きさで、表面はごつごつしていて、どこか岩っぽい外貌だった。
いまは、地面にふせて、長い首を胴へそえて、瞼をとじている。
休憩中らしい。
空は青かった、快晴である。
おれは竜を注視しつつ、背中に背負った剣へすぐに手を伸ばせるように構えていた。
納屋のそばには、柵があり、そのなかに牛も数頭いた。竜が恐いのは、人間だけではない、人間以外に生命も竜は恐いので、竜が近くにいると、心に影響を受ける。たとえば、牛など、竜がそばにいると、乳の出が悪くなったりする。
げんに、囲いの中にいる牛たちも、不安げに、鳴き、ぶるぶる震えて、すくみがあっている。
いま目の前にいるのは、払うべき竜だった。
けれど、問題がある。
おれのすぐ近くに、やたらと、先のとがった麦わら帽子を被った中年男性がいた。髭も立派で、恰幅もいい。
彼がこの農園の主らしい。そして、不安げな表情で、ぶるぶるしている。
彼は、うったえるような目で、おれを見て、いった。
「―――――」
なにかを。
なにかを、言っている。
けれど、わからない。
彼の放つ言語が、言葉がわからない。
しまった、この大陸の東の方は、おれの使っている言語とはまったく違うのか。調子に乗って、旅をし過ぎた。旅に酔いしれ過ぎた。
いっぽうで、農園の主らしき彼の表情と、身振り手振りから察するに、やはり竜を払って欲しいことは伝わって来る。言葉はわからなくとも、こちらも、これまで幾度となく竜を払ってきた、と、同時に、竜に困った依頼者たちの表情を大量に見てきたわけで、相手の表情から竜に困っている度合いはわかる。
ただ、やはり、いったい彼がどれくらいの料金で、竜払いを依頼しているのかがわからない。
まあ、とにかく、彼は依頼をしているのは間違いない。
依頼料金は不明である。けれど、まずは、竜を払うことにした。恐がっている生命がいる。おれは背中に背負った鞘から剣を抜く。
竜の骨出来た剣なので、剣身は白い。
そして追い払う。竜を空へ還した。
剣を背中の鞘のへおさめつつ、依頼人のもとへ戻った。彼は、大いに喜び、両手を握り上下にふった。お祭りみたいな、牧歌的な印象のある、はしゃぎ方だった。
言葉がわからないし、もしも、無給だったとしても、しかたない。
と、どこかで思っていた。
すると、彼はこっちへきてきえ、とばかりに手招きした。
着いてゆくと、家がある。彼は家の中へ入り、やがて中から出て来て、それを手渡して来る。
袋いっぱいの、お金だった。どっさりある、ずっしりある。かなり高額支払いされた。
まさか、逆に、言葉が通じないのに、むしろ、いっぱいお金を貰えることとか、あるのか。
わー、ざんしん。
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