よみとだえ
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
海から、都市へ向かう。そこは、三百年続く都がある。
徒歩で向かうため目的地まではまだ数日はかかる。まっすぐ道はあるので迷うことはなかった。
しばらく、旅暮らしを続けている。それによって、より、この竜がこの惑星どこにでもいることがわかった。
竜はひとよりはるかに強い、そして、自由な生命だった。だから、どこにでも現れる。竜が近くにいると、人は恐くて、そのまま暮らせなくなる。
ひと側は、常に、ある日とつぜん、竜の出現に消えてしまう生活の中で生きていた。なにしろ、竜を排除することが難しい。けれど、払うことなら、まだ、難易度はさがる。
おれは竜を追い払うことを生き方に組み込んで生きていた。背中に背負って歩いている剣は、人と遣り合うためではなく、竜と遣り合う専用の剣である。
どこかで人のそばに竜が現れば、依頼を受け、その場所へ向かう。払ったら、次に竜が現れた場所へ向かう。
それは、いつも明日の目的地は不明で旅で、自身の意志で、到達点を設定しないだった。行き場所を自分で決めなくていい、これは、慣れると、抜け出しにくくなるところがあるような、ないような。
とはいえ、この旅は自分の意志で決めた場所へ向かう旅の最中である。そして、いままさに、この旅は、とある問題を抱えていた。
おれは旅をするとき、いつだって本を一冊、懐に仕込んでいる。毎日、本を読む。小説、小説以外、種類は問わない。とにかく読む。けれど、旅の荷物を最小限にとどめる必要があった。そのため所持する本は、一冊と決めている。読み終えたら、その本は旅先の土地で、丁重に引き取ってもらう先を探し、あるいは人と交換したりして、べつの一冊を手に入れ、懐へおさめていた。
で、いま読んでいる本が、そろそろ、読み終わりそうである。頁が残りわずかだった。
いっぽうで、ここ数日、この道を進み続けているものの、ときおり通りかかる町に本屋がなかったり、あるいは、本屋はあるが読んだことある本しか置いていないことが続いた。もう、この本が読み終わろうとしているのに、まだあたらしい本を手に入れられずにいる。
由々しき事態だった。
とにかく、いまも、どうしよう、いま持っている本がもう読み終わってしまうぞ、と、思いながら道端の木陰に腰をおろし、手持ちの本を読みだし、その息詰まる物語展開につい引き込まれ、けっきょく、読み終わってしまった。
なかなかけっこうな小説だった。
本を閉じ、そして思う、次の町に本屋があることを期待するしかない。
本をしまって、立ち上がる。剣を背負い直して、道へ出て旅へ戻った。
おれにいま、読む本がない。
そう思うと、いつのまにか足早になっていた。そして高速移動の効果が発揮され、ほどなくして最寄りの町へと到着した、小さな町である。その中心部には数店舗商店が立ち並んだ場所があった。本屋はない、けれど、雑貨屋があった。
おれは知っている、雑貨屋に書籍が売られていることもある。
どんぐりを探す栗鼠のようなうごきで、そそくさと店の中に入り、棚をさがす。
店内には、一冊だけ本が売られており、それを手に取る。
絵本だった。題名は『さかなどろぼうの猫、さかなが嫌いになる』である。
絵本。
この店で手に入る本は、これしかないのか。
そうか。
しかたない。
おれはその絵本を購入し、手持ちの本は、丁重に引き取ってもらった。
翌日から、絵本を読む。絵が中心なので、文字数も頁数は極めて、すくない。
そして、次の町に立ち寄る町に、本屋がある保障もない。また、読む本を失うことを恐れ、とりあえず一日、一枚だけ、めくって読むと決めて読んだ。次の頁をめくりたい欲求を抑えながら読む。
だから、ここ数日は、さかなどろぼうの猫が、どうして、さかなが嫌いになったのか、そればかり気になってしかたない。
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