そらへかえすということを(3/3)

 竜は倒すことが難しい。

 それに竜を、人が人を攻撃するような武器で攻撃すれば、竜は激高し、他の竜を呼び寄せ、群れとなり、無差別に人の世界を口から吐く炎で焼いて行く、すべて真っ平になるまで。それで、繰り返し、繰り返し、竜は人の世界を滅ぼした。

 けれど、竜は竜の骨で出来た武器で攻撃すれば、竜は怒るが、他の竜は呼ばないし、無差別な攻撃しない、一対一のやり合いになるだけだった。そして、竜は少しでも傷を負えば、空へ飛んで去って行く。

 竜は倒すのがむずかしい、けれど、追い払うことは倒すことよりは難易度はさがる。とはいえ、払うためには竜の骨がいる。

 その竜の骨は、とうぜん、竜を仕留めなければ手に入らない。

 そして、ふりだしに戻る。竜は倒すことが難しい。

ゆえに、人がその竜骨を手に入ること事態が、強い困難をともなうことだった。

 その竜の骨で出来た管がその空間の壁を覆っていた。管はすり鉢状の床に設置された、鍵盤楽器へつながれている。

 あれだけの竜の骨を、どうやって。壁はこの地下迷宮とかたく結合されている、もともとこの建物に設置されているようだった。

 鍵盤楽器の方は、かなり、強引に管を伸ばされ接続されている。

 ハンターはあの鍵盤楽器をひくと、竜が地下迷宮へ吸い込まれるように入るといっていた。

 竜払いは、竜を払う際、呼び寄せたり、気をひかせるために、竜の骨出来た笛、竜笛を吹く。

 彼女の話を聞いたときは、てっきり、地下で誰かが竜笛を吹いているものだと思い込んでいた。まさか、竜の骨で出来た鍵盤楽器とは想像もしていない。

 いや、まだ、あれが音を出しているところを見てはいないが。

 ハンターは小声で「あれを壊せば、竜がここに入らなくなります」といった。仮面の顔をおれの半面へ寄せた。仮面についた嘴が、少し頬に触れた。「あれがなくなれば、せかいの一部は救われます」

 表現はどうあれ、彼女は真剣だった。

 あの鍵盤楽器を破壊。見たところ、ここには見張りの竜払いがふたりのみ。そのふたりも、すり鉢の底から離れた場所にいる。鍵盤楽器の見張だったとして、怠慢状態で、こちらが走ってあの楽器へ向かえば、追いつかれることもなさそうだった。

「あの竜がずっとそばにいるのです。わたしは人をやっつけられます。でも、竜はやっつけられないのです」

 と、彼女はいった。

 竜が鍵盤楽器のそばにいる。だから、彼女はおれへ依頼した。そういうことか。

「竜はおれが引き受ける、きみがあの楽器の破壊を」

「はい」ハンターは仮面越しにうなずいた。「楽器を壊すのは、嫌ですが」と、続けた。

 そうはいったものの、彼女はきっと、やるはずだった。

 おれは少し離れて、背中に背負った剣を抜く。この剣には、刃が入っていない。入っていたが消した。だからこの剣で何かを攻撃して綺麗に切はしない。

一度素振りをする。その一振りで、身体は問題なく動くことを確認し、剣を鞘へおさめた。

 ハンターを見る。向こうもこちらを見上げた。

 ところが急に騒がしくなった。

「妙なのが入り込んでいるぞ!」と、男が叫びながら入りこんで来た。「見張にいたふたりがやれてるぞ!」

 彼女が隠した気絶したふたりが発見されてしまったらしい。ひとり駆け込んで来ると、他の竜払いたちがやってきた。そして、みるみるうちに、二十人あまりに膨れあがる。

 状況が悪化した。そのまま身を隠して様子を見守っていると、奧から赤い外套を身に纏った剃髪の男がやってきた。竜払いたちは、その男のために道をあけた。そこに上下関係が読み取れる。

 まてよ、あの赤い外套の男をどこまで見たことがある。名は忘れたが、いつか、この地下迷宮のことをおれへ話した男だった。

 すると、ハンターがいった。

「企画の変更です。わたしが人間の部分を倒します、ヨルさんは竜の部分担当を」彼女はそういって、飛び出しかけた。けれど、すぐ「あ、そうか」と止って振り返った。

 仮面越しにじっと、おれの顔を見る。

 それで「そうですよね」と、いって「根本を見落としていました」と、独り何かを納得しだす。

 どういう意図の反応かは、わからなかった。

「だめですよね、ヨルさんは竜払いだし、もしも、あの人たちとこのまま戦ったら、同じ竜払いとして、うらまれてしまう、あやうい立場になってしまう」

 ああ、まあ、そういうこともあるだろう。

とはいえ、ここはやるしか。

 そう答え返そうとしたときだった。ハンターは躊躇なく、その顔から仮面を外す。

まるい眸をした、鼻の低い少女の顔を露わにした。

 予想外のできごとに、おれが虚をつかれていると、彼女は外した仮面をおれの顔へ当てはめた。

「ヨルさん、これつけとけば正体がばれないよ」

 彼女は近い距離で笑った。



「では、もはや、ここまで!」

 声をあげ、ハンターは竜払いたちへ向かってゆく。

 相手へ向かってゆくのにふさわしい叫びとしては微妙だった。やられた側が、やられた瞬間にいうような台詞を叫んで向かってゆく。

 こちらは前触れもなく、ハンターの素顔を目にし、そのうえ仮面を被せられた。それで、なにもかも動きが遅れてしまった。仮面の内側、視界部分は細かい網目状になっていた。外は見えることは見えるが、かなりの違和感がある。

 あと、彼女はせめて、もう少し物陰に隠れながら、近づき飛び出すべきだった。叫ぶべきではなかった。

 突然、奇声を発しながら遠くから少女がこちらへ向かって駆けてくる。

 となると、地下迷宮の竜払いたちは、ハンターの襲撃に一瞬は驚いたものの、到着まで距離があり、接触までは時間があるので、その間、赤い外套の男は「くそ、ふたりは俺と来い! あとはあれをつぶせ!」と、指示をして、自身はすり鉢状の底に設置してある鍵盤楽器へ向かって行った。

 一方で、ハンターの対処へ回ったのは十数人だった。一斉に、剣を抜く。どれも刃が白い。

竜の骨でつくられた剣、竜払い用の剣だった。

 その刃は人へ向ける剣ではない。

 おれはハンターとは時間差で飛び出す。

 すり鉢の底へ向かう。ところが仮面がずれ、視界が塞がれ、見えるように位置を直すのに手間取った。いっそ、とってしまおうかと思ったが、つよくしばられているため、一瞬で外すためには、破壊するしかなさそうだった。この仮面は彼女のもので、壊すわけにはいかない。

 仮面の位置は修正したが、けれど、少し動けば、すぐにずれる。けっきょく、片手でおさえながら走る。不慣れな挙動になって、速度がでない。その間に、赤い外套の男は鍵盤楽器へ迫ってゆく。

 先に赤い外套の男が鍵盤楽器へ到着した。その近くには目をつぶり、丸まっている竜がいる。けれど、そのまま男は鍵盤の上へ指を滑らせる、短い音楽を奏で、言った。

「いけ!」

 竜へ向かって。

 すると、竜が瞼を下から上へ開ける。

まるで竜へ命令たように見えた。とたん、竜がこちらを見て、吼えた。

 竜が翼を拡げる、おれを威嚇していた。音楽で竜を操ったのか、まさか。けれど、どうしてもそう見えた。

 やがて竜はおれへ向け、すり鉢の坂をかけあがってくる、身体の大きさに似合わず、早い。 竜は間近へ迫り、口をあけた、喉の奥に、炎のゆらめきが見える。

 考えている余裕はない。

 おれは片手で仮面をおさえつつ、背中から剣を抜く。

 竜の口から放たれた炎が来る、横に移動して避けた。けれど、炎は広範囲に吐かれて、灼熱の末端が肩をかすめた。地面は平面ではなく、すり鉢状なので、移動した先に安定感がない。とはいえ、それは竜も同じらしい、無茶な態勢で炎を吐いて、均衡を崩し、足をすべらせ、竜は少しこけた。

 鍵盤楽器が演奏されはじめる。赤い外套の男は、こちらの様子を確認しながら弾いていた。音楽が始まると、竜は態勢を立て直し、おれへ狙いを定めた。そして、こちらへ来る。

 ふたたび炎を吐かれた、動いて避ける、すると、竜は次に口を大きくあけてそのまま噛みに来た。真正面からだった、ところがやはり、足場が不安定で竜の動きは精細と速度が欠く、おれは片手で仮面を抑えつつ、もう片方の手には剣を持った状態で距離をとって避けた。

 竜が鍵盤楽器の演奏で操られている。

 どうしても、そうみえる。

 もし、本当にそうなら、竜に関する、とてつもない発見だった。

 いっぽう、ハンターは竜払いたちへ攻撃を開始していた。向こうも彼女へ攻撃を仕掛ける。そうしているうちに、すり鉢の縁へ、竜払いたちが七、八人ほど駆けつけてきた。向こうの援軍は、すり鉢の中で竜と遣り合うおれと、竜払いたちと遣り合うハンターを目にし、半分がこちらへ、半分が彼女の方へ向かった。

 赤い外套の男が「増やすぞ!」と、いって、曲の途中で高い音を出す。

 直後、地下迷宮の奥から、別の竜が飛んで来た。大きさは、いまやり合っている竜と同じくらいで、熊ほどの大きさだった。全身が赤い。

 二頭がこちらへ向かって来る、竜同士の連携はないらしく、いっぺんに来るので、邪魔し合っていた。

 その間に、竜払いたちがおれへの近くまで迫っていた、剣を振り上げ、振り下げてくる。相手の動きは悪く、後ろへ下がってよける。そこへ竜の炎が落ちてきた。床へ転がった、なんとか回避したその先に、二頭目の竜が小さく飛んで、上から踏みつけに来た。さらに転がって避ける。竜は着地にしくじり、すべって頭をさげた。そこへ接近し、竜の右の下あごへ、剣で斜め下から上へと片手でふってぶつける。

 おれの剣には刃が入っていない、あくまで剣の形を成したもので、叩いただけのかたちになる。

 手ごたえはあった。

 竜には充分に効いたはずだった。

 竜を攻撃してすぐ、背後で気配を感じた。竜払いたちが一斉に剣先を向けてくる。おれは仮面を手で押さえつつ、向かって来た戦闘の相手の懐へ飛び込む、うち、ひとりに体当たりが成功すると、後続の竜払いたちも一緒に倒れた。

 立ち上がると、最初からいた竜が吼えた。人の腕一本ぶんくらいの太さの牙が見える。

 いま叩いた竜の方は、よろよろと立ち上がっていた。飛び去ろうとしている。

 鍵盤楽器での音楽はまだ継続されている。曲調が変えられた。すると、飛び去ろうとした竜が動きをとめ、ふたたびこちらを見た。

 その目に攻撃色がある。

 やはり、この音楽は竜を操作できるのか。

 と、思いつつ、竜払いたちの攻撃をよける。剣は大振りだった、向こうが勢いあまってよろけたところを、蹴った。

 すり鉢の底では、赤い外套の男が鍵盤を弾き続けている、笑っていた。

 竜はおれしか攻撃してこない。他の竜払いへは向かっていない。

 鍵盤楽器は壁一面に設置された無数の竜の骨の管とつながっている、仕組みはどうあれ、竜の操作と関係あるとしか考えられない。

 と、考えている間も、人間の方、竜払いたちが次々に攻撃してくる。片手で仮面をおさえ続けながら、動きつづけて、かわし続ける。

 鍵盤楽器が新しい高音を発した。地下迷宮の奥から、三頭目の竜が飛んできて、すり鉢へ着地した。

 しかも、別の方角からは、竜払いたちが駆けつける、増員が果たされる。

 三頭の竜と、数十人の竜払いたちに仕掛けられる。

 竜が迫って来る、回避する、そこへ竜払いが剣を横に薙ぐ、頭をさげてよける、べつの竜払いに背中を蹴り飛ばされる、転がったところを、いっせいに囲まれる、手近な足の一本を掴んで、こかして、突破口をつくり、そこから抜け出したところを竜が炎を吐いて来る、身体の一部の焦げ目をつけながら走って距離をとる。その先に別の竜がいる、大きく口をあけて、噛み下ろしてくる、後ろへ飛んで避けると、そこにはべつの竜払いたちがいる。剣を次々に降り下ろされる、逃れる、けれど、それは身体の各部の端々をかすめる。その隙に、相手の腹を蹴って、吹き飛ばし、移動をする。

 動き続けないと終わる。

 そして、竜はおれしか攻めてこない、気分は最悪だった。ハンターの様子を確認する余裕がない。

 竜と人間を同時に相手にするのは、はじめてだった。同じ体験をしたことがある者がいるなら、どうすればいいか教えて欲しい。

 ただ、かくじつなのは、竜と竜払いたちは連携はなされていないようだった、むしろ、竜の攻撃に巻き込まれた者たちが何人もいる。

 このまま生き続ければ、竜の攻撃の巻沿いで、竜払いたちの数が減る。

 けれど、それは到達可能な希望とは程遠い、希望だった。

 しかも、竜払いたちは、次々に増えて行く。こんなにいっぱい地下迷宮にいたのか。どうりで竜払いの数が不足するわけだった。

 苦笑したい。けれど、苦笑している間に、死ぬ可能性がある。いまは心を無にして、やる気しかない。

 曲調がまた変わった、四頭目の竜がすり鉢へ飛んで来る。もはや、四頭の竜と無数の人間たちで、すり鉢の中は混雑していた、欲張り過ぎだった。

 鍵盤を破壊すれば、竜の増加はとりあえず防げる。とはいえ、それは困難だった。竜は次々に牙を、爪を、炎を放ってくるし、避けても、その先には竜払いたちの刃が攻撃してくる。それも、だんだん、うまく回避できなくなってきた、少しずつ、肌と服を切られることが増えた。

 絶え間なく襲われ続ける、それでもなんとか鍵盤楽器を破壊しようと、距離を詰めてみるが、竜が攻めて来る、人が攻めてくる。決定的な距離まで迫れない。

 そうだ、仮面と、いまさら、まだ片手でそれを抑えている自身を思い出す。

 いや、たとえ両手が使えたところで、なにかが劇的に変わるとも思えない。

そのときだった。

「にゃあ!」

 と、奇声が聞こえた。

 いつの間にか、ハンターが近くにいる、そして、竜払いのひとりを平手うちしてい る。かなり強烈な平手うちだった。うたれた方は、上空に少し身体が浮いていた。

 そして、彼女は「にゃあ! にゃあ!」と、奇声を発しながら、かたっぱしから竜払いたちへ平手うちを喰らわしてゆく。その一撃で、竜払いたちは、吹き飛んでゆく。「にゃあ! にゃあ! にゃあ! にゃあ! にゃあ! にゃあ! にゃあ!」

 と、奇声とともに、すごい勢いで竜払いたちを叩いてゆく。

 鋭く、素早く、獣みたいな動きだった。平手打ちひとつで、竜払いたちを身体ごと、浮かして吹き飛ばす。

 露わになったハンターの眸は血のように赤かった。

 そんな彼女の奇声と、攻撃に、竜払いたちが唖然とし、一瞬、動きを止めた。

 奇妙だったのは、竜の方だった。ハンターが奇声を発しながら攻撃しはじめると、竜たちも動きをとめ、彼女の方を見ていた。

 なぜかはわからない。

 けれど、好機だった。おれはすり鉢の底へ向かう。剣を片手に握りしめる。

 数人が気づいて、進路を塞いだ、固い壁となっている。

 突破するのは難しい。

 けれど、やるしか。

 と、思っていると、気配を感じた。

 ハンターがすぐ近くにいた。

 彼女の素顔が近い、低い鼻も近い。

 赤い眸で見てくる。

「にゃああああああ!」

 そして、ハンターは仮面をかぶっていたおれの顔面へ平手打ちを打ち込み、吹き飛ばす。

 凄まじい衝撃だった。

 足が地面から浮いて、鋭く吹き飛ぶ。

 そのまま壁になっていた者たちへ激突した、向こうはおれが平手打ちで吹き飛ばされてくるとはと予想できるはずもなく、完全にゆだんしていて、ともに倒れた。

 仮面が割れた、ばらばらだった。

 ただ、仮面をかぶっていたことで、衝撃がだいぶ緩和された。

 竜はハンターを見て動かなくなっている、人間の方は、ハンターの平手打ちに不意をつかれて動きを止めている。

 ここしかない。

 おれは吹き飛ばされた勢いで転がり、すり鉢の中心へとたどり着いた。

 鍵盤楽器を弾いていた赤い外套の男も唖然としている。

 おれは思った。

 ひどいめにあった。

 で、目の前の男は、きっと、こう思っていた、ああ、ひどいめにあう。

 直後、おれは鍵盤楽器に接続された管を剣で叩き壊す。

 ただ、一瞬、赤い外套の男の方が早かった「があぁ!」と、叫び、叩くように両手を鍵盤へぶつける。その次の瞬間には、おれの振った剣が管を叩き切っている。けれど、音はすでに菅を通じ、壁に設置された竜骨の管へと流れ込んでいた。やがて、断末魔のような音が鳴った。

 その音は、ながく、ながく、続き、ひびき、ひびき、やがて、鳴りやみ、静寂となった。

 やがて、地下迷宮が振動しだす。みると、地下迷宮の奥から、無数の竜たちが群れとなってこの空間へ飛んでくる。壁にぶつかり、柱へぶつかり、破壊し、倒しても、かまわず飛んでくる。それより急速に強度を失った地下迷宮が崩れはじめる、天井が落ちだす。

 竜払いたちは大騒ぎし、地下迷宮から脱出を開始した。

 おれはハンターを見た。彼女は少し離れた場所から、赤い両目で頭上を飛ぶ竜たちを見上げている。竜はつぎつぎに、地下迷宮の奥から飛んで来る。

 鍵盤楽器は崩れた天井の一部に潰され粉砕した。これで、竜は操れない。つぎには壁に設置された管もがらがらと音をたてて崩壊した、再現も不可能だった。

 ハンター、と、おれは名前を叫んで近づく、彼女は倒れたまま、竜たちを見上げ続けていた。

 慈しむような眼差しがそこにあった。

 そのとき、崩れた天井の欠片が、彼女の頭部へぶつかった。それで、そのまま倒れて、動かなくなった。

 駆け寄る。

 倒れたそばによると、彼女はいった。

「みんな、ここから自由になってよかった」

 まだ、頭上の竜たちを見ていた。

「ごめんなさい、ここから出してあげたかったのです、みんなを空に還したかったの」

 と、いった。

 おれは呼吸を整えて「きみの生き方は好きだ」と伝えた。

 その間に天井や壁大きく崩れた、出口が塞がれていった。竜も人も、まだ、すべてが逃げ出せていない。

 あきらめてはいけない。

 彼女を背負う。

 べつの出口を探す。

「だいじょうぶださ」

 と、ハンターは微笑んでいった。

「みんな空へ還るから」

 耳元で、そうささやいた。



 次の瞬間、地下迷宮にいた竜たちは一斉に天井へ向かって飛んだ。そのままぶつかり、落下する。けれど、次の竜たちが天井へぶつかり続ける。それが何度も繰り返された。

 すると、天井がひび割れて、光が見えた。竜たちはさら天へのぼって体当たりし続ける。瓦礫が落ちるが、まるで、下にいる者たちに瓦礫が落ちないように、制御しているような動きだった。

 ある瞬間、天井が完全に砕けた。

光りが見えた。

 夜は明けていた。

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