そらへかえすということを(2/3)

 食事をした町から、半時ほど乗り合い馬車に乗った。

 馬車には他にも乗客はいた。おれの隣に座ったハンターは、これまで、自分がこれまで助けることに成功した生命の話をずっとしてきた。迷子になった犬、家から出られなくなった蜥蜴、枯れかけた植物、など。

 人を助けたときの成功話はなかった。

 最終的に彼女は「でも、へいきなのです」と、言い出した。「へいきは、人生の万能調味料なのです」

 仮面越しに空を見る。

 曇っていた。

 まあ、へいきそうに見えなくもない。なので、追及はさけた。

 すると、馬車が進む先で、別の馬車が車輪に溝がはまり立ち往生している場面に遭遇した。とたん、ハンターは「わたししかいない」と、いって、馬車から必要上の大きく飛んで、地面に降り立つ。そして立ち往生している馬車へ向かい、台の後ろをひとりで持ち上げて、車輪を溝から外した。小柄な体躯に比例しない怪力である。彼女には、もしかすると、竜の血が流れているのだろうか。馬車の助けると、ハンターはこちらの馬車へ戻って来て、おれを見る。

「今日は、運の悪い馬を、運よく助けることができました」

 複雑なことを仮面越しで言い放ってくる。

「でかした」

 おれは、仮面みたいな表情で褒めておいた。

 その後、馬車の終着点で下車した。あとは徒歩で現場へ向かう。

 到着し、もう地下迷宮の入り口までやってきた。

 おれは彼女の斜め後ろに立つ。

 もはや、陽は沈みかけていた。

 その景色は、まるで惑星の骨格標本に見えた。

 場所は建築用の石材を削りだす採掘場の近くだった。地下迷宮の入り口は、その近く白く低い山の麓にあった。

 この白い山は採掘場での切り出し作業中に途中で割れてしまったり、質がよくない 石材を、長い間、ここに廃棄され、積まれてゆくうちに山になっていたらしい。低くなだらかで、広範囲に広がっている。にわとりの生卵を割って広げたようなかたちをしていた。頂上は、一階建て家屋に届くかどうかくらいだった。完全な人工の白い山で。周辺一帯の地面も、風に吹かれた影響か白く、見渡す限り、ここには植物的な緑色はまったくない。

 山から少し離れた場所には、ちょっとした移動式遊園地的な天幕が張られていた。活気はないが、栄えてはいる。露店もあるし、簡易的な宿屋もあった。どれも、入り口の近くからは離れているが、どの天幕にも、地下迷宮に挑めそうな外貌の荒々しい者たちがひしめき、その隙間に身を置くように、商売人らしき者たちもいる。地下迷宮から持ち出された宝を、すぐに買い取ってしまおうと狙っているらしい。

 よもは、一定の仕組みが仕上っているようだった。

 なんでもすぐ、産業化である

「では、話の後半開始へまいります」

「そういうの、どこで覚えてくるんだ」

 その仕切り方の取得もとを訊ねてしまう。

 ハンターは「りんごまつりの司会の人を観察しました」と答えた。「そこに、全然の憧れもなく、観察しました」と、補足も入れて来る。

 答えられても、それはそれで「そうか」としか返せない。

「そして、後半のためにとっていた、とっておきの秘密もあります」

 今度はそんなことを言い出す。彼女なりに、段取りをたてていたらしい。相手どられる方としては、いろいろ対応が難しい感じがある。なんというか、進行が下手としか言いえない。

 そのとき、なにか聞こえた。

つぎに竜を感じた。

 迷宮の中か。

 いや、ちがう。

 視線を西へ向けると、空を一頭の竜が飛んでくる。大きさは、馬一頭ほどだった。翼の角度を変え、こちらへ急行してくる。おれはハンターへ「さがろう」と伝え、入り口から遠ざかる。

 竜はそのまま空から地上へ向けて滑空して来る。その左足の付け根には真新しい傷があった。この近辺で誰かが払ったばかりの竜らしい。竜はそのまま地面へ向かって来ると、そのまま地下迷宮の入り口へ、吸い込まれるように入っていってしまった。

 そして、静寂となる。

 竜が地下迷宮の中へ吸い込まれるように入って行くのは本当だった。この目で確認した。

 けれど、違和感はあった。それを即座に言語化はできない。

「あんなふうに」ハンターがしゃべりだす。「竜は迷宮の中へ入ってくの」

 前にも見たような口調だった。

「だから、中は、もう、竜でいっぱいです。竜でぎゅうぎゅうの地下迷宮でした」

「そうなのか」

「わたくし、何度か、中に入って調べましたので」

「地下迷宮に入ったことがあるのか」

「はい、ここに来て新情報を出す衝撃、の構成をねらって、いま発表してみました」

「ねらわれた方には負担だが」

「だって、もしも、ヨルさんが、わたしに途中で、あきたら、そのまま離れてしまいのではないかと想像しまして」

「文面だけだと誤解を生産する可能性がある言い方だ」

 おれは感想をつぶやいた。

 それから地下迷宮の入り口へ視線を向ける。

 廃棄された白い石材が積もり、山となったその麓に、闇のような大穴があいている。

「あの、ヨルさん、ちょっといいですか」と、ハンターがいった。「やっぱり、なかだるみをさけるため、ここで、ほんとは、さいごの、さいごに言うとしていた、秘密とかを、前倒しで発表した方がいいですか」

 変わった種類に問いかけをされ、おれは「正解がわからない」と、いって、ハンターを見た。

 彼女は仮面越しにこっちを見ている。

「わたし、生まれつき、隠し事がへたなのです」仮面で隠した顔の下から、そういう。そして「ごめんなさい」と、小さな声で、なぜか謝った。

 そういえば、彼女はいっていた。なにかを助けたい。けれど、隠し事が下手。

 なにかを助けたいに、隠すのが下手となると、困難なことは多い気がする。いや、あまり、うまく言葉で表現もいないが。

 つまり、なんというか、世界と世界の接続部分に、足をとられ、躓くことばかりではないかと。

 それで、嫌になる、生きていても、こんなことばかり。

 とか、なったり。

 と、おれが想っていると、ハンターがいった。

「竜がすいすい地下迷宮の中に入ってゆく、秘密、それは!」

 急に、重要そうなことを発表しようとする。

 下手だった。

 彼女はいった。

「地下迷宮の中で、竜を呼び寄せる音を出している人がいます」

 そう告げられ、彼女を見た。

 竜を呼び寄せる音。

 地下迷宮の中で、竜を呼び寄せる音を出している者がいる、もしかして、竜笛のことか。

 おれも竜笛は持っているし、今日も使った。竜の骨で出来たこの笛を吹けば、竜の気がひけて、こちらへ呼び寄せることが出来る。ただし、竜はけっこう怒る。

 竜笛の音をきいた竜が、地下迷宮の中へ入ってゆく。いや、たしかに、竜笛を吹けば、竜を地下へ呼び寄せることは可能かもしれない。

 まてよ、そういえば、さっき、空を飛んで来た竜が地下迷宮へ入り込むとき、何かを聞こえた。まさか、あれは竜笛の音色だったのか。

「地下迷宮を支配している竜払いの人たちが、竜を地下へ招き入れているのです」ハンターは刺激的な言い方をした。

 地下迷宮を支配している竜払いの人たち、とは、どういうことだ。

 おれが問いかけるように見返すと、彼女は「わたしは中に入って調査しました、確認しました」と続けた。「てってーてきに、調べました」

「なぜか、竜払いが、竜を地下迷宮の中に」

「市場の独占のようです」

市場の独占。

 で、ハンターは言う。

「地下迷宮の中は宝物でいっぱいです。美術館ですから、そりゃあ、いっぱいあります、わんさかです。中に入って、その宝物を持って帰れて売れば儲かります。でも、あるとき、どうして、そうなったかまではわかりませんが、竜が地下迷宮に入ってしまいました。そしたら、竜と戦えない人たちは地下迷宮へ入れなくなりました、竜、恐いので、接し方がわからなおので」

 しゃべりながら、ハンターは途中から紙を取り出し確認しながら話を続けた。

「えー、そのため、竜がいる地下迷宮に入れるのは、竜を知っている竜払い人たちだけになしました。その後、竜払いの人たちはみんなで相談して、組織っぽくなって、さらにさらに、いとてきに、竜をもっと地下迷宮へ竜を入れたようです。そうすれば、地下迷宮の中に宝物の発見作業は竜払いが独占できます。そのうえ、竜払いの人たちで、地下迷宮の宝物の出荷量を調整できます」

 そこまで話し、ハンターは紙をしまう。

「こちらからは、以上です」

 と、いっておれの方へ、仮面を向ける。じっと見る。

 妙な間を経て、おれは考えた。

 ようするに、竜払いが竜払いでいることで、富を得る方法を開発した。そういうこ とか。宝を独占すれば、竜を払って得る依頼料より儲かる。

 となると、そちらへ傾くこともあるか。

 で、結果的に地下迷宮の方にみんな向かったため、竜払いの数は不足状態になり、 竜が現れても、依頼が出来る者がいなくなる。

 よって、旅の途中だった、おれへ依頼が押し寄せた。

「そして、わたくしは考えました」

 ハンターはふたたびしゃべりだす。

 つまり、こちらからは以上ではなかったのか。

「地下迷宮に入りこんだ竜をぜんぶ、外に追い払ってしまえば、竜払いの人たちの独占市場ではなくなります。ここが、みんなの地下迷宮になれば、竜払い不足も解消して、ゆくゆくは、牛乳もいっぱい出荷できるようになると思います」

 なるほど。めぐりめぐって、そうなるかもしれない。

 雑な計算ではあるが。

「それに」と、ハンターは何かを続けようとしたが、ふと「あ、だめだ、そうだ、言い忘れていました。これはわたしだけでは、実現できない企画です」

「企画ってなんだ」

 問い返したが、無視され、代わりに言われた。「わたしは人はやつけられます。でも、竜はやつけられません」

 ハンターの身体能力は高い、怪力だし。けれど、竜払いじゃないし、いくら、人と遣り合え、人を倒せても、竜と遣り合うには、正確な知識が必要だった。

「だからー…………けつろん、ヨルさんの登場です」

 彼女は、さまざまな言葉を端折って、そういった。

 おれが無反応でいると、「わたくしには、ヨルさんしか、ないのです」と、さらに押してきた。「竜払いの、ともだち」

「なあ、地下迷宮の中に、竜ってどれくらいいるんだ」

「ひかくてき、ぎゅうぎゅうにいます」

 さっきもその、ぎゅうぎゅうの表現をつかっていたな。だいたい、いったい、なにと比較しての表現がわからない。けれど、やはり、そこを追及したところで画期的な情報は返される気がしないのでやめておいた。

「でも、実現方法はわかりやすいのです、ご用意してあります」ハンターは言い切る。「竜を呼び寄せている音を出している人をやつけるのです」

「そうなのか」

「はい、地下迷宮に入って確認しました。音を出している人がいました。その人を、やつけて、それから竜を外へ追い払えば、地下にいる竜はいなくなります」

 おおざっぱな説明なので、不安はぐんぐん成長するばかりだった。不安が縮小する材料も乏しい。

 それでも、ハンターの話には聞き逃せないものは大きい。この地下迷宮に集合してしまった竜払いたちを、地下から放出させれば、竜払い不足は解消し、いもづる式に、おれへの依頼は減るだろう。そうなれば、この地を離れ、西へ向かうこの旅が再開できる。

 ハンターの話は高密度な危うさがある。けれど、このままなにもしなければ、竜払い不足の解消は、ただ時の流れに解決をゆだねるだけになる。その間も、竜は人々の暮らしの中へ現れる。竜が家の近くにいると、恐くて、夜眠れない人たちもいる。

その中には、たとえば、生まれたばかりの赤子だっている。この世界にやってきた早々、よく眠れないのは、気の毒だった。

 おれは彼女を見た。

 で、聞いた。「地下迷宮と呼んでいるんだし、中では、はやり迷うのかい」

「安心を。そこも事前に、わたしが調査しておきました、道案内はおまかせください」右手に拳をあげていってきた。「ここは、いまも地下迷宮と呼んでるだけで、正体は、さかさまの美術館とばればれなのです」

 そういえば、そんなことも言っていた。これは、なぜか、地下に埋まった、さかさまの美術館だと。

 ハンターは「地下迷宮が迷宮だった時代はもう終わっているのです」と、いった。

たしかに、この地下迷宮は、発見された当初は地下の迷宮だった、中は誰も知らなかった。はじめの冒険者にとっては、かくじつに迷宮だった。

 けれど、いまは中の資産を安定的に摘出する仕組みが完成した、あとからかかわるおれたちにとっては、ここはもう冒険の場所ではなく、生産地だった。しかも、思惑あって、竜を中へ入れ、つよい負債になった。

 それを竜払いたちがやった。

 考えて、ゆっくりと息をつく。話しているうちに、夕方の空が終わっていた、太陽は消えている。けれど、まだは夜があさい。地下迷宮の中は明かりがないので、外の明るさは影響しないが、ことを秘密裏に行うなら、向こうがねぼけているかしれない時間帯、真夜中の方がよさそうだった。

 それをハンターに伝えた後で、続けた。

「わかった、地下迷宮から竜払いを、払おう」



 着地した入り口付近の床は湿っていた。

 人工の壁になっていた。天井はつるりとしている。床には、ところどころ、こぶしほどの大きさの、小さな穴があいており、得体の知れない妙な突起もあった。どちらも何かがはめ込こまれていた形跡がある。

 たしかに、さかさまな感じがある。天井が床のようだし、床が天井のようだった。

 そして、入り口付近に設置された、たいまつのそばに見張らしき男がふたりいる。どちらも三十歳前後で、立ち振る舞いから察するに、竜払いらしい。

「ん、なんだ、おまえらは」

 と、ひとりが非友好的な感じで問いかけてくる。

 すると、ハンターはいった。

「しまった、みつかった」

 ああ、地下へ入るとき、この見張に、みつかってはいけなかったのか。いま、はじめてその情報を知ったぞ。

 彼女はさらに「はじめてみつかってしまった」と、追加で情報を投げて来る。その発言も必要とは思えなかった。さらに続ける。「仕留めるしかない」

 宣言後、彼女は男のひとりへ正面から飛びついた。腕をとり、後ろへまわった。完全に背後をと、相手の裏膝を蹴る。膝を倒して態勢が崩れたところを、両手で首を絞めるにかかる、瞬く間に身体が地面へ沈んでゆき、倒れると、腕をとりつつ、首を複合的にしめる、完全に寝技へ入った。

 いっぽう「あ、ちょ、こいつ!」と、もうひとりがすぐに、剣を抜こうとする。

 ハンターは寝技中なので、隙だらけだった。

 相手がふたりいるのに、一人目で寝技を仕掛けるのは無策そのものだった。

 おれは刃を鞘へ入れたまま、背負っていた剣を背中から外す。

 対人戦闘は苦手だった。竜払いは人と戦う専門家ではない。けれど、ここはやるしかない。寝技中のハンターへ迫る男の腹部に、剣の鞘先を突き当てた。衝撃が内蔵まで達し、男は、ぐっ、と濁音を上げて、動きをとめる。その間に、一人目を寝技で眠らせ終えたハンターが立ち上がり、二人目へ飛び付き、倒し、首をしめて寝技へ持ち込む。

 十秒ほどで、二人目も眠った。

 相手を沈黙させたハンターは、寝技を解き、ぴょん、とびっくり箱のように立ちあがる、いった。

「安心してください、急所は外してあります」

 誰へ向けて言っているのだろうか。

 少なくともふたりは気絶しているので、聞くことはできない。おれに伝えているのだとすれば、たた扱いに困り、そのための反応を返す負担の増えるだけの情報だった。

 あと、安心とは何に対してだろう。

 そして「人をやっつけてしまうと、いつも悲しくなります」といった。

 おれは「ここでそれを言われても感想が難しい」と返す。

ハンターは「でも、いまは勇気を使うときです」といった。

 言葉の意味はさておき、張り切っているのがわかる・

 その後、倒したふたりは発見されないようハンターがその怪力を発揮し、ひとりずつ、かついで物陰に運んで言った。

 運んだ後で彼女はいった。「犯罪者の気持が少しわかる悲しさがあります」

 おれは「そうか」と、だけ答えておいた。

 ふたりを隠し終えた彼女は「ヨルさん、竜を呼び寄せる音を出しているのは、いちばん奥の広い部屋です」といった。

 そして中を進む。ところどころ、光源が設置してあり、そう明るくもないが、すべてが暗闇ではなかった。途中で何人かの竜払いを見かけた、けれど、見つかることはなかった。地下迷宮と呼ばれた場所だったが、聞いていた通り、すでに道順は見事に開拓されつくしているらしい、案内するハンターは迷うことなく中を進んだ。壁や天井に展示品があった痕跡もある。ただ、入り口付近のものは、どれも獲り尽くされた後らしい。

 もう冒険され尽くされている。そういう感じの場所だった。先にみつけた者が消費を完了し、出遅れた者になにも残す気はない。この空間がそれを伝えてくる。

 迷宮内には三種類の壊れた壁があった。ひとつは地震か何かで崩れた感じで、もうひとつは竜がぶつかってあいたような穴、そういう壁にはときどき、竜の鱗が床に落ちている、そして、最後のひとつは最近、人が破壊したような穴だった。強引に壁を壊して道を造った、何か巨大なものを運び出そうとしたのだろうか、好き勝手に道を広げた痕跡がある。

 そのままハンターに案内で地下迷宮を進む。さらに他の竜払いの姿もみつけた。けれど、みな、ひとりだった。麺麭を齧っていたり、ぼんやりとしていたり、これといった警戒した様子はない。つねに相手の存在をこちらが先に察知し、身を隠しつつやり過ごして進む。

 奧に進むと、竜には二度、遭遇した。一度目はねずみほどの大きさの竜だった、たいまつの下にいた。二度目は牛ほどの大きさの竜で、彫刻でも展示されていたらしき台の上で、水鳥のように長い首を胴へ添えて、目をつぶっていた。

 竜はこちらから攻撃しなければ、向こうからは攻撃してこない。それでも人は竜が恐い。竜のそばにいるうちに、いずれ、慣れて恐くなるということが無い生命体だった。これまで幾度となく竜を払って来ても、それは変わらない。

 地下迷宮内を進んでいて遭遇した竜は、その二頭だった。けれど、ずっと、他の竜を常に感じている。数えるのが嫌になるほどの数がいる、どこかに隠れているらしい。

 竜も人も警戒しつつ、かわして奧へ進む。

 ハンターは竜と遭遇するたび、仮面越しにじっと、見ていた。

 竜払いたちの支配下ではあるものの、すでに解析され尽くされた地下迷宮を進むのは容易だった。特別な警戒は、入り口にいた見張ふたりだけだったらしい。ここの竜払いたちが、かたく結束して、組織運営されている印象はなかった。

 進み続けた末、やがて、その空間へたどり着く。

 かなり広い場所で、床がすり鉢の底みたいになっている。

円形で床が半円状にへこんでいる。もとはいまの床が天井だったので、奇妙な地面になっていた。ありじごくの巣に見える。そして、中心のわずかな平らな場所に、熊の二倍の大きさほどの竜が丸まっていた。いまさっき、この地下へ入りこんだ竜とは別の竜だった。

 その竜の横に椅子つきの鍵盤楽器がある。

そして、すり鉢の縁に立つ柱の下に竜払いらしき男たちがいる、酒を飲んでいた。一応、見張らしい。

 奇妙な空間だった。

 ただし、この空間でもっとも異様なのでは、壁のある面だった。

 白い管の壁だった。壁の一面にびっしりと白い管が絡まり、かさなり、編みこまれ、蔦のように壁を張り巡らせている。それはすり鉢状の底まで続いていた。

 さらに強引に白い管が延長され、椅子つきの鍵盤楽器へと直結されていた。

 それを目にして、一瞬で理解した。

 あの管の白さは、おそらく。

「ヨルさん」

 ハンターの声で我に返る。

「あの楽器をひくと、竜が地下に入って行くのです」

 で、おれはいった。

「壁を覆う管は、すべて竜の骨で出来ている」

 それは、とてつもない量だった。

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