きりふだゆうぎ
りゅうを倒すにはお金がかかる。追い払うのはそれより、安価で済む。
だから、竜払いという仕事がある。
「俺は勝負師さ、生まれながらの勝負師。金を、いいや、己のすべてを賭け、切り札遊戯に生きている。いつだって真剣勝負だ、俺と同種の勝負師たち、そう、切り札遊戯獣たちとな。日夜、小さな台へ切り札を出し合い、勝負する。そこで勝者を決める、敗者を決める。俺にとっては切り札勇気で勝つことがすべてだ。負けは終わりだ、なにも与えられない、それがこの勝負の世界だ。ここでは、あらゆるものを賭けることになる、そうさ、死のにおいがつきまとう。ここでは勝つこと以外、生きている気になれない者たちばかりだ、そう、わるいな、狂っているのさ、俺も、お前たちも。だがいいさ、これが俺たちの選んだ生き方だ、この小さな札のために生まれて来た、そう決められた運命だ。俺は今日も、誰かと勝負する、負け知らずの猛者たちと、金だけではない、己のすべて賭け、勝つ」
なんだろう。
男が、ぶつぶつ言いながら食堂に入って来たぞ。
昼間、おれは、のんびりとした雰囲気の町に立ち寄り、そこにあった食堂で塩茹できのこの料理を食べていた。そこへ、男が独り、ぶつぶつ何かを言いながら店へ入って来た。
三十代くらいだろうか、長い前髪で顔の半分が隠れている。黒い背広を着た、微妙に日焼けしている人だった。
「かつて、俺にも、いとおしき人もいたんだ。しかし、結局、俺は生き方を変えなかった。何事も、俺の生き様は変えることはできないのさ、切り札遊戯の勝負を途絶えさせた日はない。いぜん、食中毒で入院していた一か月間以外は」
男は、ずっとぶつぶつ言いながら、店内の奥へ入って来る。
そこへ、女性の店員さんは「あ、いらっしゃい、おひとりですか」と、訊ねた。
男はゆったりと間をあけてから「肉体はひとつだが、数々の強敵たちの魂が。五百人さ」と返す。
笑えない。と、しか感想を言えない。
とにかく、こっちに接近しなければ、いいが。
「伝説を耳にした。いまこの店に、切り札遊戯の王がいるという。だから俺は来たのさ、ここまでな。ふふ、しかし切り札遊戯の王とはな、そいつは聞き捨てならない、聞き捨てならないさ。そいつは、俺が倒す必要がある」
んん、こっち、見てるな。
「さあ、どいつだ、どいつが、切り札遊戯の王だ」
ぶつぶつ言っているというか、もはや声量が、独り言の域を越えて始めていて、こうして離れた席にいても、すごく聞こえてくる。そこが、つらい。
とりあえず、ここは光のはやさで、この塩茹できのこを食べきって、店を出よう。
「あいつか」
やっぱり、おれを見てる
「俺には、わかるぜ、あいつだ」
わかってはない、確実に。
「あいつこそ、闇の切り札遊戯の世界に君臨する、そう、獣さ!」
なんだろう、そもそも、さっきから、皆さんとうぜんご存じ、みたいに言い放っている、その切り札遊戯って。
「ふっ、さては、奴も俺に気がついてやがる。さすがだぜ」
いや、君はこの限られた空間において、無視する方が極めて困難なほど、迷惑な存在感を放っているぞ。
「さあ、今宵も!」
いま真昼だよ。
「賭けようぜ、切り札遊戯に、命を、お互いさあああああああああああああ!」
遠い目をし、絶叫といえるほどの声で言い放つ。
その後、男は店員さんに、店内から追い出された。「他の客の迷惑なので」と、言われ。「二度と来るな」と、言われ。
彼に言い逃れる、切り札は、なかった。
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